『Angel's wing』

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仕事の合間に貰うメールがどれだけ私に元気をくれていたか、改めて思い知るには一日で充分だった。


いつもより早く上がれたのに家に帰った時にはくたくた…


コートも脱がずにソファーにぐったりと倒れ込むと携帯が鳴り、左之さんのことが頭をよぎるけど…着信拒否してある…


バックから携帯を取り出すと平助君で、通話ボタンを押すと懐かしい声が聞こえた。


「あっ、羽央さん?久しぶり…元気だった?」


『うん…どうしたの?平助君が電話してくるなんて珍しいね…』


「いや、別に用事ってほどじゃねえんだけどずっと会ってねえし元気かなって。お袋も顔見たがってたからさ飯でも食いに来ねえかと思って。」


心配してくれる人がいることが素直に嬉しい。でも、今の私じゃおばさんに心配されてしまう気がして会う事すら重く感じた。


『あ……今、仕事が忙しくて毎日残業なの。だから、また今度でもいい?元気にしてるからっておばさん達に伝えてくれる?』


仕事が忙しいのは本当で、その中に混じる嘘に平助君は気付かなかった。


「そっか…それならいいんだ。わかった伝えておく。」


平助君はほっとしたような声で私のお願いを聞いてくれると“それじゃあ”と電話を切った。


おばさんとは平助君と仙台に行った時以来会ってない。ずっと気にかけてくれてたのかなと思ったけど、何かひっかかる。


食事に誘うなら直接電話がくる気がしてしまう。おばさんは、そういうところで変な気をまわさない人…


さっき平助君は“それならいい”って何か心配ごとがあったの?


もしかして…総司のこと……慌てて電話をかけるとすぐに平助君が出た。


『平助君?総司から何か連絡があったの!?』


「ちょっ…羽央さん…どうしたんだよ。なっ……」


平助君の慌てぶりが怪しくて、私は早口でまくしたてた。


『おばさんが私に会いたかったら直接電話してくるだろうし、平助君が電話してきたのがなんだか不自然で。』


諦めたように小さなため息をついた平助君は“実はさ…”と話始めた。


「総司の携帯に電話したらさ“使われてません”ってなってて、羽央さん知ってるのか気になったんだ。」


予想とは違う内容に頭が真っ白になったけど、ポツリと疑問が零れ落ちた。


『……知らな…い……いつ…から…?』


「先週、掛けた時…言わない方がよかったかな…」


平助君の申し訳なさそうな声にはっとした私は、掌をきゅっと握りしめた。


心配させちゃいけない…


『ううん。教えてくれてありがとう。何か…』


「何か…?」


『総司から連絡あったら…教えてもらえるかな……』


「ああ、わかった。」


『それじゃあ…』


通話ボタンを切ると、手が小刻みに震えていた。


離婚届出したら教えてって総司は言ってたから、いつでも連絡が取れると思っていた…


平助君の言葉を信じてない訳じゃないけど、ずっと掛けてなかった総司の携帯に電話した。


使われてないってアナウンスが流れるかもという思いより、確かめずにいることの方が不安で恐る恐る耳に携帯を持っていくと…


『………なんで……?』


それは平助君が言っていた通りのアナウンスが流れてたけど、心は信じられなくて。


総司とはどこかで繋がってるっていう気持ちがずっとあったから……


左之さんと別れてからそう思うなんて、私は本当に自分勝手……


やっぱり一人が怖いなんて子供みたいで嫌になる…


総司と別れたあの時より、私にとって総司が大切な存在だって感じる。そのことに気付いても…伝えることもできない…


どうしていつもこうなんだろう…大人になれば…後になって気づくことはなくなるのかな…


昨日とは違う涙が頬をすべり落ちていくのを感じるだけで切ない。


誰を待つことも許されない独りの夜は、長くどこまでも続くような気がした──


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