『Angel's wing』

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左之さんは私の腕を取り自分の首元に回させると、ふわりと体が宙に浮いた。


抱っこされてる…これって…お姫様みたいな…


軽々と持ち上げられたけど重くないのかな…とか考えると、恥ずかしくて目の前にある左之さんの顔が見れない。


なんだか顔が火照って…熱い…赤くなってるかも…


でも、これは抱っこされてるからだけじゃない…左之さんが向かってるのはもう一つの部屋…


引き戸を足でうまく開け、冷たいベッドにそっと私を下ろすと縮まる距離…


左之さんの熱を帯びた眼差しがどんどん迫ってきて、思わず目を瞑った。


「羽央っ……」


いつもより低い声で耳元に囁かれると、頭の中でこだまして夢を見てるみたいな感覚になる。


キスだって今まで何度もしたのに…初めてみたいにドキドキして…


不安なのか期待なのかわからない気持ちを落ちつけたくて手を握ると、いつの間にか左之さんの指が絡まっていた。


私の気持ち…全部わかってくれてる……それだけで、安心して体から力が抜けた。


リップ音がして唇が離れたと思ったら首筋を這う生温かい感触に、背筋がぞくぞくして体が勝手に反ってしまう。


お腹を触る冷たい手は柔らかく動いて、私の緊張をほぐそうとしてるみたい…


『…ぁっ……』


いつの間にか背中にあるホックがすっと外され胸の圧迫感がなくなった瞬間、頭がチクリと痛んだ。


私に触れているうちにあたたかくなった左之さんの手は、胸へと移り膨らみの輪郭を確かめるような動きを続けた。


『……ぁ……はぁ……ぅ……っ……』


その間も頭の痛みは激しくなり刺すような痛みに、呼吸が乱れていく。


どうしよう…こんな時に…


我慢しようと思ったけど頭を締めつけるような痛みが大波のように押し寄せる。


このままじゃ……無理…


『……さっ…の……さ……』


かすれた声で呼ぶと首元にあった左之さんの頭が離れたけど、照明が明るくて顔が見えない…


「羽央…どうしたんだ?」


『頭…痛くて…』


「顔色悪いぞ…?熱は……ねえな…頭痛だけか?」


額に手を乗せ心配そうな声の左之さんに、返事も出来ず小さく頷くので精一杯。


“ちょっと待ってろ”とベッドから下りた左之さんはクローゼットを開け、私は痛む頭を抱え横向きに体を丸めた。


「着替えて寝てみた方がいいかもな。これなら、ゆったりしてるし楽だろ…」


動くのすら辛かったけど、左之さんに心配をかけたくなくて起き上がった。


「薬あるかちょっと見てくる…」


そう言って寝室に一人になった私は渡された長袖Tシャツに着替えた。


『痛いっ……痛いよぅ……』


言葉にしないと耐えられないくらい痛くて、脱いだ服を畳むことすら面倒で床に置くと、ベッドに倒れこんだ。


寝てみたけど脈打つ度に痛みは増して、浅く呼吸することしかできない。


渡された薬を飲んだけど痛みは完全には取れなかった。


ベッドの縁に腰掛けた左之さんは私の頭をゆっくりと撫でてくれる。


『すいません。薬飲んだのに効かなかったことないんですけど…』


「風邪のひきはじめかもしれねえから、今日はゆっくりしてた方がいいな。俺はシャワー浴びてくるから寝てていいぞ。」


一人になった部屋で壁にある時計を見ると、日付が変わる所…


目を瞑っていると左之さんが戻り布団に入ってきたけど、無言のまま。


こんなことになって…がっかりしてるのかも…気まずさに“おやすみなさい”すら言えない。


瞼から感じていた明かりは消え、横になった左之さんからため息が漏れた。


直接触れてなくても体温が伝わる距離で、じっとしていると隣から静かな寝息が聞こえ始めたけど…私は眠れない…


どうして薬が効かないんだろう…こんな風に頭が痛くなったことなんてないのに…


弱まったとはいえ消えない痛みに眠気が勝つまで耐えるしかなかった。


『……ん……いたっ…い……』


ぼんやりする頭…夢かな…体の中から感じる痛みに声が漏れた…


「…どうした?まだ、頭痛いのか…」


心配そうな左之さんの声と揺れたベッドに夢じゃないって目を開けた。


『頭じゃ…ない……背中…の…上…痛い…』


肩甲骨のあたりに感じる痛みは一点というより広い範囲で、砂利の上に寝かされてるみたいだった。


「背中…?ちょっと見せてみろ…」


電気をつけた左之さんは痛みに布団を抱きかかえる私のTシャツを捲り背中を見た。


「この辺か…?」


いきなり痛みの元に触れた指に、電気が走ったみたいに全身が痺れた。


“大丈夫か?”と慌てた声がして指が離れると痛みは薄らいだけど、まだ痛いような気もする。


自分の体なのに何が起きているのかわからない…


『背中…どうなってます…?』


「赤くなってたりはしてねえけど…痣…みたいのがあるが、前からか?」


左之さんに聞かれて、自分の背中にある痣のことを思い出した。


痣は何度かしか見てないし、普段は背中を見ることもないから存在自体忘れていた…


それを触ったら痛んだけど、左之さんが触れる前から痛くて目が覚めたんだし…。


今まで傷跡が痛んだことはないのに…今日は痛んでばかり…どうして?


【天使にとって交わりは罪】


総司の言葉が脳裏に浮かび、色んな可能性に頭が混乱する…


私は捲られたシャツを慌てて下ろし、口を噤んだ。


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