「Angel's wing」


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脈絡もなく聞こえた言葉が私に気付かせてくれた。


私にも求めていたものがあったって…私の居場所。自分を偽ることなくいれる場所…


仕事でやりがいを感じていても、一人でいると不安で落ち着かなかった。


原田さんは記憶がないことを知っても私と一緒にいたいって…言ってくれた。


そのことが本当に嬉しいけど、簡単に返事できない…私はまだ結婚したままだから…


『……でも……私は……』


「今のおまえの状況もわかってる。だが俺が欲しいのは羽央の未来で過去じゃねえ。」


私の状況を理解してくれた上で一緒の未来を考えようとしてくれる。


それは総司のことをふっきれていない私にとっては、大きな選択…


原田さんは人のことを思いやれる人。それは出会ってから、知っていくほどそう思う。


怒っても泣いても…受け止めてくれる原田さんの大きさを知ってしまった私は、断わる理由を探せなかった。


人の気持ちが変わっていく怖さを知っていたけど、どんな私を知っても変わらない原田さんなら…そう思っても迷いが消えない。


自分で決めるという不安に、いつの間にか原田さんのコートを握りしめていた。


「羽央が俺と一緒にいたいか、いたくねえかだけでいい。選べ。」


耳元でそう言った声は低くて頭に響きわたる。選べ…その重さに力が抜けた。


求められたからという答えじゃだめなんだ。私が自分の未来を選らばなくちゃいけない…


一緒にいたいか、いたくないか…そこに好きかどうかは入ってない。それは私のことを考えて…


その優しさに…甘えたい…受け止めて欲しい…


私が選ばないと──…


何かに動かされるように私は原田さんの背中に手を回していた。


柔らかいコートが優しく私の頬にあたり、広い胸にすっぽりと収まる感じにほっとする。


自分で…この温もりを選んだんだ……


『ゴホッ……』


太い腕に背中を締め付けられ、咳込んだ私は慌てて口を押さえた。


心配する原田さんの声がして顔を上げると、息がかかる距離……


少しだけ体は離れたのに抱きしめられた時より恥ずかしい。


琥珀色の瞳は幸せそうで、それがなんだか照れくさくて目を逸らした。


すっと後頭部に手が触れたと思うと私の視界はスローモーションになり原田さんの顔が目の前にあった。


……えっ?


長い睫を伏せた原田さんと、違う体温を唇に感じればキスしてるってわかったけど心の準備もできてなくて、心臓が凄い早さで動きだした。


少し固い髪の毛が頬に当たって驚く私は目を開けたまま瞬きするだけ…


本当にキスしてる…


原田さんの手が微妙に動き、私の首元と腰を支えるように動くのを感じて顔を離した。


深いキスになりそうだった…それだけは確かで、どうしてそれを避けたのかこれと言い切れる理由はみつけられなかった。


冷たい風が離れた私達の間を通り抜けると、自分の顔がどれだけ熱くなっているかわかる。


ドキドキする心臓は総司とキスした時と変わらなくて…自分の気持ちがよくわからなかった。


私は総司のことを忘れたの…かな…


「ちょっと話せるか?」


今日一日で色々ありすぎて、原田さんが話したいことが何なのかまで気が回らなかった。


『はい大丈夫です。私の家でいいですか?』


「ああ。」


“こっちです”と歩きだすと大きな手が触れ、私の指の間にすっと原田さんのが入り込む。


絡められた指は解けない…恋人のつなぎ方…


冷たい指先が左之さんの体温で温められていくと、大きさの違う歯車が一緒に回り始めた事を改めて感じる。


自分で選んだ覚悟のような、強い気持ちで部屋に向かった。


『狭いですけど…』


左之さんが脱いだ靴が玄関にあるだけで、なんだか変な感じだった。


『温かいもの用意しますね。適当に座っててください。』


玄関と部屋の間にあるキッチンで私は足を止め、コーヒーの用意を始めた。


一人分しかない食器。マグカップと湯呑にコーヒーを注ぎ持っていった。


原田さんはソファに座っていて、その場所は…と一瞬考えたけどすぐに考え直した。


ソファがあればそこに座るのは当然だし、総司は捨てようとした物で、今は私のソファ。


「ありがとな。…温まる。」


原田さんが座るとソファが小さく感じて、二人掛けには見えない。私は…床に座った方がいいかな…


「隣、座ってくれるか?」


立ちっぱなしだったこに気付いてくれた原田さんに言われ、隣の空いてる所に座った。


このソファでこっち側だと違和感がある…それでも、立ち止まってちゃいけないんだ…


ふぅ…と息を吐ききると、原田さんの方に体を向けた。


私の未来が欲しいと言ってくれた原田さんと歩む決心をしたからこそ、話さなければいけない。


『原田さん…話しておきたいことがあるんです。聞いてもらえますか?』


「ああ…」


二人の間には緊張感が漂ったけど、ふっと力が抜けた。


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