「Angel's wing」


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時が癒してくれるのを待ってなんていられない──…


ソマリに対する思いをなんとかしないと君は追い詰められてしまう。


少しでも日常を感じて気持ちが落ちつくようにコーヒーを用意すると、羽央にパソコンでペットの葬儀を調べるように言った。


自分で葬儀の手配をすることで、心が死を受け入れるんじゃないかと思ったんだ。


だけど、羽央はパソコンから手を離した。予想通り…君には辛い現実だから…


「ソマリを見送ってやろう?それが今の僕達がソマリにしてあげられることだから。」


しばらく考えた羽央はそろりとキーボードに手を置き、検索で出てきたサイトを上から順に見ていった。


開いては閉じを繰り返していた君の手が止まった──…


そこにある文字は“新たな旅立ち”で羽央がすぐに閉じてしまうサイトはペットや最期を並べている所だった。


納得する所を見つけられたのは前進だと思う“いいんじゃないかな”と言うと羽央は真剣な表情で電話をかけた。


口調もしっかりしてるしもう大丈夫と思った矢先、泣きそうな顔が見えたけどあえて気付かない振りをした。


ここを乗り越えれば羽央は強くなれるはずだから…


それなのに堪え切れず溢れた涙を拭った羽央の指を見たら勝手に体が動き、冷たい手を握っていた。


放っておけなかった…離れていた時は散々無視したのに本当に自分勝手だよね…


こんな一時しのぎの優しさなんて意味ないかもしえないけど“死”は孤独を感じさせるって知ってるから。


一瞬でも一人じゃないって思って欲しかった…


電話が終わった頃には三時を過ぎていたけど羽央はリビングから動こうとはしなかった。


眠くないんだろうけど少しは体を休めないと。ソファで肩が触れ合うくらいの距離に座ると取ってきた毛布を掛けた。


二人きりの空間は静かすぎて違和感がある。ソマリとは羽央よりも長い時間一緒に過ごしたから…


「ソマリは僕より羽央の方が絶対好きだよね。あの時だって…」


なんで急にこんな話を始めたのかな。薬を飲んでから僕がもし死んだらって考えることが増えたからかな…


僕の最期が今やってくるとしたら何を願うと聞かれたら、君が僕のことを憶えていてくれることを願う──…


羽央ちゃんみたいに自分のことは忘れて相手の幸せを願うだけなんて僕には出来そうにない。


ソマリが僕達を結びつけ、幸せな時間をくれたことを忘れずに憶えてるよって伝えたかった。


だけど話も尽き沈黙が訪れた──


事故だけど自分に向かってくる車が見えたらソマリは逃げる俊敏さを持っていたと思う。


もしかしたら止まったの?ソマリを追いかけ飛び出した羽央を止める為に…


動物なら本能的に危険を回避しようとすると思うけど、今までのソマリの行動を思い返せばあり得る話だと思う。


ソマリはいつも羽央の味方だったから…


肩に頭を乗せてきた羽央は力が抜けていて、張り詰めていたものから少し開放されたみたいだった。


ふと窓を見ると夜が明けていた。カーテンから透ける朝陽を感じると確かにほっとする。


「少し寝よう…」


触れ合う頭から君が頷いたのを感じて目を瞑った。羽央のぬくもりが僕を眠りへ誘う。


マンションの住人の音で目が覚めると三時間しか経ってなくて、羽央は首をカクンと曲げた姿勢のまま眠っていた。


ちゃんとベッドで寝た方がいいけど、あそこで目を覚ましたくないだろうな…羽央をソファに横たえると毛布を掛けた。


少ししか眠ってないけど全然眠くなかった。一人ベッドで寝るよりも羽央とソファで寝る方が深い眠りにつけるなんてね。


ソファに眠る君を見ていると前より痩せてしまったことが気になった。冷蔵庫を開ければ野菜が少しあるだけ。


一緒に住んでた時は、毎日違う料理が並んで冷蔵庫は満杯だったのに、一人になった君は料理する気も失くしてしまったんだね…


出会ってから一緒にいることが当たり前で、なんでも君は二人単位で考えていた。


いきなり別れを告げても一人で生きたことのない羽央には出来るはずないのは当然で、もっと別の方法があったかもしれないと思いはじめた。


まずはソマリのこと。


一度に全部解決することなんて無理だ。一つずつ、一歩ずつ…


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