「Angel's wing」
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仕事から帰り郵便ポストを開けると、私宛ての大きな封筒が入っていた。
文部科学省の文字…高認の結果。送られてきたってことは合格したんだ…
私は封筒を手に階段を駆け上がり部屋へ向かった。はさみで封筒を開けると“合格証書”の文字が見え、寝室に駆けだした。
『ねぇ、総司起きて!合格したよ。高認!』
「うん…おめでとう…羽央…」
総司は寝むそうにそう呟くけど驚く様子もなかった。一人ではしゃぎすぎちゃったかな…
それでも嬉しくて、目を擦る総司の顔の前に賞状を差し出すと、私の腕を総司は引いた。
だけど、なんとなく総司がそうするのはわかっていた私は踏ん張った。冷静な総司にちょっとだけ抵抗。
「おめでとうの抱擁をするつもりだったんだけど?」
『だって、総司驚きもしないし…嬉しくないのかと思って。』
「僕は君の実力なら受かるってわかってたからね。驚かなかっただけで嬉しいよ。おめでとう、羽央。」
そう言って起き上がった総司の目は“おいで”って訴えてて、私は賞状をチェストに置くと総司の腕の中へ。
やっと一つ目標をクリアできた…やり遂げるまでかなり時間がかかってしまったけど、私の選択肢が広がったことは間違いない。
『総司、ありがとう。』
「がんばったのは羽央。次は何の勉強をする?」
『車の免許取りたいな…。お給料もらったら、通ってみようと思って。』
「うん、いいんじゃない?分割で支払えるし。僕の通った教習所が近いから行ってみるといいよ。」
そう言うと総司はベットから降り、両手を上にあげ伸びをした。
『総司、もうちょっと寝てたら?いつもなら寝てる時間だし…』
「でも、今日は羽央の合格記念日だし…一緒にご飯の支度をするよ。僕一人じゃおいしいのができないからね。」
大丈夫なのかな…総司、疲れてるのに…そんな私を見透かすように手を差し出す総司は、嬉しそうな笑顔。
私は手を取り二人でキッチンに向かった。いつもと変わらないメニューだけど、二人で作った料理はいつもより美味しかった。
自分の目標に向かってがんばってる時より、総司と一緒に何かするほうが楽しいって言ったら総司は怒るかな…
それからは空いてる時間は教習所に通うことにした。総司は仕事が忙しくて遠出することもなかったから丁度よかったのかもしれない。
免許を取ったけど、総司の車は運転させてもらえなかった。“一人じゃ危ないって”言われると確かに総司が正しい。
でも指輪が届いた後、約束してた旅行の時に初めて運転させてもらえた。
総司の方が心配そうだったけど、一時間くらいで疲れきってしまった私は総司に運転を代わってもらった。
ふぅーと息をついた私を見て総司は声を殺して笑ってたけど…初めてなんだから仕方ないよね。
それでも、また一つ新しい経験ができた。一歩前に進めたよね?
秋が終わり吹く風が冷たさを増した頃、店長から電話がきた。
「沖田さんすいません。パートの田中さんが体調不良で、今日出て貰えませんか?」
申しわけなさそうな島田さんの声を聞いた私は、“大丈夫です”と答え仕事に向かった。
パートは私を含め三人いて、早番と遅番にわかれていた。みんな顔見知りだけど、入れ違いになるからちょっとした世間話をするくらいだった。
田中さんはいつも元気な40歳くらいの人…どうしたのかな。翌日行くと、遅番だった田中さんに会った。
「沖田さん、昨日はありがとう。ちょっと月のものがきちゃって…貧血みたいになってとても店に来るどころじゃなくてね。時々そうなるのよ…」
『月のものって…?何ですか?』
「若い人はそう言わない?月経ってなんだか言いにくいじゃない…」
なんだろう…それ…私が何も言わないからか、田中さんはじっと私を見ていた。
その視線は私に同意を求めていたけど、考え込んでいた私はぼんやりしてしまっていた。
そのことに気付き、思わず知ってる振りをした…
『言います…あれは辛いですよね…じゃあ、お疲れ様でした。』
私が頭を下げると“お疲れさま〜”と田中さんは気にした様子もなく笑顔で私と交代した。
私には勉強以外の知識が少ない…知らないことがあって当然だし調べればいい。家に帰って辞書を開いた。
【月経】“子宮内膜からの生理的出血。性成熟期を通じ妊娠、産褥期を除いて起きる。”
書いてあるのことは大体わかる…それでもわからない単語を調べていくと愕然とした。月経がこないと…妊娠できない。
今まで出血したことなんて一度もない。どうしたらいいんだろう…
総司は私が天使から人になったと言っていた。もちろんその話を信じたし、私は普通の人になれたと思っていた。
だけど、辞書を見るかぎり大人の女性ならみんな月経があるみたい…
辞書だけじゃ詳しくわからない…寝ている総司に気付かれないように私は図書館に向かった。