「Angel's wing」


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「心配しないで。僕が傍にいるから…」


握った手に少し力が入り、しっかりと私を見つめる瞳に、心の不安が吸いとられていくみたいだった。


黙って頷くと総司はにっこりと笑って目を閉じた。まだ、昼にもなってないのに眠いのかな…


私は黙って車窓を眺めていた。色んな車や店…その賑やかさが病院とは別世界に感じた。


家につくとソマリが玄関まで出迎えてくれた。一回り大きくなって顔周りの茶色の毛がふさふさして本当に総司みたい。


「おかえり、羽央。」


優しい調べのように私の耳に響く総司の声。不安を隠した私の心はそれだけで感情が溢れた。


『ただ…い…ま…』


ここしか帰る場所を知らない…でも、帰ってきていいのかって不安だった。


お互い気持ちを打ち明けたけど、それでも離れているとどうしても不安で…


落ち着かなきゃ…深く息をつくと、私の体は総司の腕の中に閉じ込められた。胸に耳をつけると鼓動が聞こえる…


「ここは、僕達の家だよ。」


総司には私の考えなんてお見通しなのかな…でも、もらう一言一言に安心する。ありがとう…


総司に同意するようにニャーとソマリが鳴いた。“まあ、おまえの家でもあるか…”と仕方なさそうな総司…


仲がいいね…思わずくすくす笑ってしまった。


リビングに行くと本がたくさん積んであった。2、30冊はある…


総司はキッチンにいくと、コーヒーとフルーツタルトを持ってきてくれた。


『おいしそう…』


思わずそう言うと“食べて?”っていう総司に頷いてフォークを手にした。


隣り合うテーブルの辺に座わると総司の顔がよく見える。病院ではいつも並んで勉強していたから、なんだか嬉しい…


フルーツは何か塗ってあってきらきらしていて、宝石みたい。


口に運ぶと甘さとさっぱりとした後味。病院じゃ食べれなかったな…おいしい…自然に笑顔になる。


でもこの嬉しい気持ちは、きっとおいしいだけじゃない。総司が一緒だから…


「おいしい?」


総司は普通に聞いただけなのに、私の目から涙が零れ落ちたのを感じた。


『…っ…ごめっ…』


悲しいわけじゃないのに…総司に心配させてしまう…掌で頬をざっと拭って“大丈夫”と言ったけど、総司はカチャンとフォークを皿に置いた。


「羽央、おいで?」


総司はそういって自分の膝をポンポンと叩き、私に手を差し伸べた。


その手を取ると、すっと誘われるように私は総司の膝に横座りする形にった。


そこが私の居場所というように総司の逞しい腕が私を包み込むように抱きしめてくれた。


「さっきも言ったでしょ?ここは僕達の家。我慢することは何もないんだ。泣きたい時は泣けばいいし、言いたいことは言おう。ね?」


まるで子供をあやすような総司…いつもその心の広さに私は救われる。


色んなことを抱えきれず、そう言ってくれた総司に私の今の気持ちを伝えた。


『私、総司と一緒だと嬉しい。だけど、私が失った記憶、総司は何か知ってるんだよね?それを聞いたら私は総司を失うのかなってずっと思ってて。それなら聞かない方がいいのかとも思ったけど…でも…』


心に溜めていたものが一気に言葉になり溢れたけど、うまくまとまらない…


それでも、重苦しかった心は言葉にしただけで少し軽くなった気がした。


総司が私の肩に手をかけ体を離し、優しい眼差しを向けながら声を発した。


「知らないと前に進めない?」


私がゆっくりと頷くと、総司は話してくれた。だけど、それは私の考えていたことと全然違っていて…まるでお伽噺…



そんな話が…あるの?


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