「Angel's wing」


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左之side


羽央を胸に抱けば早まる鼓動…俺は惚れちまったのかもな。


マサへの気持ちが偽りじゃねえと思いながら、他の女を抱きしめる俺はなんなんだろうな…


恋なんてのはどこにおちてるかわからねえ…いつ始まるかなんて神のみぞ知るだ。


総司の家にいった時は二人を心配してたっていうのに。この様だ…



『左之さっ…離してっ…』


俺の腕の中でもがく羽央の声は焦っていた。俺にとっていい反応じゃねえ…


「離したくねえ…そう言ったらどうする?」


すんなり退くなんて出来ねえ。格好悪いとかそんなものはどうだっていい…俺の気持ちをぶつけねえで後悔するのなんかまっぴらだ。


『私は、左之さんの傍にはいれないです…きゃっ…』


壊れちまわない程度に強く抱きしめた。これで俺の本気は伝わったよな…


誰の隣にいてえんだよ?ヤッてる所を見せつけられても、俺の所にいると知っても迎えにもこない奴を選ぶっていうのかよ。


家の外に追い出されて、熱出してうなされて…それでも総司がいいのか?


羽央の目をちゃんと見ていいてえ…おまえの両肩を掴み体を離した。


「俺なら、羽央を幸せにできる。」


マサにも言ったことがない言葉だ。今度こそ女を泣かせねえ…だがそんな言葉にも羽央は迷う素振りすら見せなかった。


『私が好きなのは総司君です…』


そのまっすぐな眼差しはどこから来るんだ?総司の何がそんなにおまえを信じさせ、強くさせるんだ?


「そんなのは知ってる。だが、好きな女をわざと傷つけるような男といたって幸せになんかなれねえ。俺なら羽央を大事にしてやれる自信もある。」


そう言うと羽央は泣きはじめた…総司のことで傷ついてないわけじゃなかった。俺の言葉にまったく心が動かねえってことでもねえ…


『傷ついても…嫌われても…ぅっっ…』


涙を流しながらも必死に言葉を紡ぐ羽央に俺の胸は掻き乱された。ここまで苦しんでんのに…なんで総司なんだよ…


『…っ、好きだという気持ちを止められない…好きになっちゃいけない人とわかっていても…』


俺を選べばいいじゃねえか…そんな思いで叫ぶように言った。



「忘れちまえよ…総司のことなんか!」


力の加減も出来ずに涙に震える体を抱き寄せたが、聞こえた言葉に俺は絶望にもにた敗北感を感じた。


『忘れられなぃ…死んでも。私ができることをしてあげたい…憎まれても…左之さん…わかって…』



幸せにできるって言った俺の言葉は陳腐だな…。俺を求めてねえのに、羽央を幸せにしてやるなんて無理な話だ。


死んでも忘れられねえ…マサのことを必死に忘れようとしていた俺とおまえとじゃ正反対だ。


そこまで総司を愛してるなら俺じゃどうにもならねえ…


「そう言われちまったらな…ほら、歯磨きしてこい。」


俺の出る幕はねえか…


ぐっすりと眠る羽央はマサに似てると思ったが全然違うな…好きだから気持ちのまま求めあってた俺達とは違う次元にいる気がした。


朝になったが熱は38度代…


俺は大学に向かった。今日は年内最終日だし総司も来るだろう…きっちり話をつけねえと。


教授に資料の片付けを頼まれ、時間をくっちまった。昼休みのカフェテリアは食べ終わった生徒がちらほら見受けられた。


総司の姿はないな…知ってる顔を探せば総司とよく一緒にいるのを見かける奴がいた。斎藤…だったか?


女と一緒に飯を食っていたが声を掛けた。


「総司を探してるんだが知らねえか?」

「あんたもか…総司なら北棟の第五小講義室だと思うが。」


あんたも?もって…まさか…俺は慌てて聞き返した。


「“も”って他に誰が探してたんだ、羽央か?」

「そうだが、羽央を知ってるのか?」


俺は礼を言うのも忘れ講義室に走った。あの日の光景が頭をかすめた…


前に、羽央が大学に来た時…総司は他の女と小講義室でヤッてた。羽央は総司のことを好きだと言ったから俺は言わなかったが。


いつからだろうな…総司の顔にはおまえに対する恋愛感情が見えた。だから昔の俺みたいに改心できりゃいいって…


だが、今の総司はやけになってるとしか思えねえ…またあの場面を羽央が見ちまったら本当に壊れちまうかもしれねえ。


総司はそういう奴だと言っておくべきだったか…熱も下がってねえのに総司の為なら無茶をする羽央。


だが、俺の腕の中で泣いたおまえも本物だろ?愛する者の為に強くなれるっていうのもあるがその代償は大きい。


間に合ってくれ…


嫌な音を立てる心臓…北棟へと走った。だがそこに着いた時に見えたのは、総司に振り払われる羽央の姿だった。


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