「Angel's wing」


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左之side


羽央と初めて会ったのは、近藤さんに用事があって店に行った時だった。


マサと別れて二年…羽央はどことなくマサに似ていた…似てるからマサの代わりに…なんてことは思ってなかった。


別れてからゆっくりと薄れていく記憶の中でマサを求める気持ちだけはまったく消えないジレンマに陥っていた。


男としての欲求がない訳じゃない。だが、昔のように気軽に女と関係を持てなくなっていた。ふとした瞬間にマサが頭をかすめる。



雰囲気が似ている羽央と話をしているとマサと話してるみてえで気が休まる感じがした。男と女というより、女と話すリハビリみたいなもんだった。



だが、総司と一緒に住んでることを知った。男がいる女に友達だからって近づくなんざ御法度だ。



散々遊んでた総司が一人の女と付き合うなんてな…昔の俺みてえだ。ここで改心できりゃ、総司も幸せになれるだろう。



暫くすると総司のまわりにいた女達をみかけなくなった…うまくいってるんだな…そう思っていた。



だが、駅で羽央を見つけた時…俺の中で怒りがこみあげた。一緒に住んでるのにこんな時間に一人で外に出すなんて総司は何やってんだよ。


羽央は俺に気付いたのか背を向けていた。この寒さの中、コートも着てないなんて…俯き寒そうに自分を抱きしめている手が見えた。


ほっとけなくて家に連れて帰った。総司と喧嘩したんだろうが…羽央は何も言わねえ。


ちょっとした喧嘩なのか?何があったかと軽く聞いてみた。だが聞こえてきたのはちょっとした喧嘩なんて内容のものじゃなかった。


総司が他の女とヤッてるとこを見て、泣きもしねえのかよ…悔しくねえのか?


それでも総司が幸せならいいなんておまえは言いやがる。その今にも泣きだしそうな顔に気付いてねえのかよ…


「その泣きそうな顔が答えだろ…素直になれよ羽央…」


無意識に俺の腕は羽央を抱きしめていた。おまえがそんな顔してんの耐えられねえ…そう思った。


『…やっ…』


そういって俺の胸を押す羽央にほっとした。そうだよな…おまえはマサじゃねえし、俺は総司じゃねえ。


お互い好きなヤツじゃねえとダメなのがわかったか…女は素直じゃねえと幸せ逃すぞ?


なんだが、羽央にマサの話をしたくなった。俺とマサとの思い出…


あいつには伝えられなかった俺の本当の気持ち…マサに似てるおまえに言いたかったのか。あいつには言えなかったから…


二年たってやっと口に出来た。それは、俺にとっては進歩だったかもしれねえ…


俺の話を黙って聞いていた羽央…その瞳に何か言葉に出来ない思いを見た気がした。


それはマサが時々俺に向けていた視線に似ていた。俺達はお互い夢中になりすぎて、まわりのことなんて何も気にしてなかった。


だから、お互いの背景にあるものを知ろうとせず結果それが別れの原因になっちまった…


“何か隠してることあるだろ?”


核心を突くと言葉に詰まった羽央…それじゃ本当の愛は手に入んねえ…俺の話はその悪い見本だ。


俺らみたいにはなってほしくねえ。“総司には話してやれ”と頭を撫でると髪の上からでも熱を感じた。


熱を計らせれば39.4℃…とりあえずベッドに寝かせた。翌日…薬を飲ませたが熱が下がる気配がねえ。


総司の所に帰してやりてえが…アイツの状況みてからじゃねえと。眠ってい羽央には心配をかけたくねえな…


俺は後輩に連絡を取り、総司が遊んでた女から住所を聞き出した。


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