「Angel's wing」


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食べはじめた僕達だけど羽央ちゃんだけは静かだった。大学の話をしてたから君にはわからない話だったかも。


暫くすると君のフォークが動かなくなった。視線を向ければなんだか顔色が悪い気がした…


「羽央ちゃん…大丈夫?」


『ちょっと…すいません…』


そう言って立ちあがった君。…裏にあるトイレかな…追いかけていくこともないかと思って僕達は話を続けた。


だけど…遅い。“ちょっとごめん”一君達に声をかけ厨房に向かった。そこにはガス台を掃除してる近藤さんの姿。


「近藤さん、羽央ちゃんは?」


「羽央君なら外の空気を吸ってくると言っていたが…」


レジの足元を見れば羽央ちゃんのコートが丸めて置いてあった。こんな寒いのに…僕は席に戻りジャケットを手に外に出た。


表から出て裏口に回ったけど君の姿はない…訳もなく仕事を放って羽央ちゃんがどこかにいくなんて考えられない。


何があったのさ…君が行くところなんて思いつかないよ。荷物を置いて家に行くわけないし…



この辺で君が一人で行く場所…



もしかして…教会?



「近藤さん!教会の場所教えてください!」



裏口のドアをあけ僕は慌てて聞いた。僕が大きな声をだしたから近藤さんはびっくりしてたけどすぐに道順を説明してくれた。


“そう…”近藤さんが話しおわる前に僕は走り出した。羽央ちゃんのことが心配だよ…


あそこを曲がれば教会だ…曲がると人にぶつかりそうになった…羽央ちゃん…いた…



『どうして?』


「それはこっちの台詞。心配するでしょ、何かあったの?」


“何でもないです”そういう君は何をかくしているの?そんな困ったような笑顔…逆にこれ以上聞けなくなってしまった。


もっと羽央ちゃんのことを知りたいと思うのに僕達の間には大きな壁がある気がしてしまう。


でもいつかその壁を僕は乗り越えてみせる。急いじゃダメなんだ…羽央ちゃんに合わせるよ。


「また風邪ひいちゃうといけないから…」


ジャケットを君に着せれば羽央ちゃんは優しい表情で僕を見つめてくれた。それだけで嬉しいよ…


赤くなってる君の手を握って店へ帰った。僕が誰かのために振り回されてるなんて信じられない。


でも体が勝手に動くんだ。君が好きだから…


店に戻るとみんなほっとした顔をしてた。“もう閉店だから、家に帰っていいよ”と近藤さんがタッパーを君に渡した。


賄いの残りを詰めてくれたんだ…近藤さんは優しいな。


一君たちとお店の外で別れて歩きはじめた。空には星が瞬いていた。空なんて見上げたいと思わなかったのに…


家に帰ると掃除洗濯が終わった部屋。“ありがとうございます”そう言って笑った羽央ちゃんの顔が嬉しくて“ご褒美ないの?”っていうと困った君。


「じゃあ、お風呂一緒に入ろう?」


『えっ…お風呂!?』


「寒いから二人で入れば待たなくていいし。」


『そっ、総司君が先でいいです。私、待ちますから!』


そう言ってお風呂の準備に向かった君の顔は真っ赤で…かわいいなぁ…


わかってたよ君がそう言うの。でも、僕だけが振り回されるのもね?


お風呂ができ上がるまでソファでテレビを見た。羽央ちゃんは動物の番組が好きみたいではしゃいでる。


僕にとっては君が隣に座っていてくれればそれでいいんだ。近づく距離に慣れていくことが君には必要なんでしょ?



お風呂に入った僕は先にベッドに行く。僕の後に入った君はなかなか出てこない…いつもより長湯だなぁ。


部屋に来た君はほっぺを赤くして布団に入るけど、いつものようにうつ伏せになった。


“こっちにおいでよ”と優しく言うと僕との距離を縮めて体の側面が触れ合う。でも耳まで赤い…


これ以上はダメかな…腕枕をしてあげると仰向けになった君…“おやすみ”と声をかけ僕は目を閉じた。


何だか君の頭が重くなった気がして目を開けると羽央ちゃんはもう寝ていた…寝つきが悪い僕が君より先に寝れるわけないか…


でも僕の腕の中で眠る君は天井に顔を向けたまま…うつ伏せじゃなくても寝れるのは僕の腕の中でも安心できるから?


でも、かわいい寝顔を見た僕の気持ちがわかる?我慢にも限界があるんだ。




先に眠った君が悪いんだよ?



そっと唇にキスして僕はため息をついた。いつまで待てば…来週はクリスマスだ。


それくらい待てばいいかな…


クリスマスなんて女の子におねだりされるから避けてた日。そんな日に会う子は彼氏持ちのサバサバした子だったな…


そんなことを思い出すと僕はやっぱり汚れてたって思うよ。でも、それはもう過去の話だ…


そう思っていた僕は甘かったのかな…


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