「Angel's wing」
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『おっ、沖田さん…わざとじゃ…』
慌てる君の顔を見て思いついた。もうお互いの気持ちは確認したし羽央ちゃんは僕のものだ。“沖田さん”なんて他人行儀すぎる。
「そうだな。沖田さんじゃなくて名前で呼んでよ。」
『総司さん?』
なにそれ…僕がおじさんみたいじゃない。名前で呼ばれたいのに…
だけど君も諦めない。こんなときだけ頑なになる必要なんてないのに。まあ、居候してるから悪いと思ってるのかな…
“総司君?”って首を少し傾げる羽央ちゃんはかわいかった。仕方ないか…
僕を君づけする子なんていなかったな…ある意味新鮮かもね…
出かけようとした羽央ちゃんを見送りに玄関に行った。いつもなら僕はべッドの中だけど、今日は起きてるからね…
「いってらっしゃい。羽央ちゃん!」
『行ってきます!総司君!』
君はまるで遠足に行く小学生みたいに元気な返事。こんなに元気そうな君はみたことないかも…
思わず笑いが零れたけど、手を振って見送ると恥ずかしそうに手を胸元で振った羽央ちゃん。
確実に僕達の関係は変わったよね…君の表情や仕草…羽央ちゃんの反応は前と違う…
寝坊した羽央ちゃんは洗濯もしていない…今日は僕がしてあげよう。
気付けば羽央ちゃんが来てから何もしてなかった僕。久しぶりに洗濯や掃除をした。いつもは面倒だったのにそう感じない…
掃除機をかければ君が怯える姿、洗濯ものを干せば羽央ちゃんがそれを着ているところを思い出す。
乾いた洋服をクローゼットにいれれば、少しだけど君のスペースが決まっていた。
君の居場所が僕の中で確実にあることが嬉しいんだ。
僕の買った洋服しか着ない君…お給料も貰っているのに全然使ってない。来週でバイトもお終いだし、二人で買物にでもいこうかな…
一人で過ごしても彼女になった羽央ちゃんは僕を離してくれない。
君に早く会いたくてお店に行った。店は空いてたから席に座って君を見るとすることがなくて立ってるだけ…
あそこにいるお客さんが帰ったら、もうお終いかな…羽央ちゃんと家でまったりできるかもなんて考えてる僕。近藤さんに悪いかな…
お客さんがいなくなると僕のテーブルにきた羽央ちゃん。
『今日は空いてましたね。』
「なんだか眠くなっちゃったよ…ふぁぁ…」
家中掃除したから疲れたちゃったよ…でも綺麗になった部屋をみたら羽央ちゃんはなんていうかな…ちょっと頬が緩んだ気がしたけど。気付かれてはいないはず。
店のドアが開く音がした…せっかく二人で話してたのに…お客が来たら羽央ちゃんはまた仕事だ。
でも入って来たのは一君。しかも女の子を連れてる…これは、面白そうだな…眠気もさめて声をかけた。
「あっ、一君。いらっしゃい、一緒のテーブルにする?」
“ああ”と頷くと女の子に隣に座るように声をかけた一君。“はじめまして”そう挨拶して座った彼女は幼い顔をしてる。
羽央ちゃんが水をもってくるとお礼を言って一君の前に差し出す彼女は気がきくタイプ。今時めずらしい子だな…
注文を聞いた羽央ちゃんは厨房に向かった。
「一君、彼女とデートしてきたの?」
「何を言うんだ。俺と彼女はそういう関係ではない。」
「だって、土曜に二人でいたらデートしかないじゃない。」
「俺と彼女は大学の集中講義で一緒になっただけだ。そんな風に言われたら彼女が迷惑だろう。」
一君は彼女を庇おうとしてそう言ったみたいだけど、彼女は寂しそうに視線をテーブルに落した。
まあ、一君は不器用だし…彼女の隣に座ってるからその表情までは見えないよね。あーあ、僕が助けてあげないとだめか。
「でも、講義が終わっても一緒に食事なんてやっぱりデートだと思うけど…迷惑だったら彼女もついてこないと思うよ、ね?」
彼女にそう視線を向けると“迷惑じゃないです”と赤くなりながら呟いた。さすがにそれに気付いた一君も赤くなったけど…
まるで中学生みたいだけど…お似合いかな…
しばらく今日の講義の話を聞いていた。よくしゃべるな一君…本当に勉強好きなんだな。
僕が女の子ならデートでこんな話つまんけど…
ガチャン、パリン…
皿が割れた音がして僕は厨房に向かった。きっと羽央ちゃん…怪我してないかな…
ほうきとチリトリを取りだした僕は君に声をかけたけど、怪我はしてないみたいだ。しょんぼりする顔はお皿を割ったから?
何だかんだいってバイトを始めてからミスをした所を見たのは初めてでなんだか不安になるよ。
風邪が治ったばかりだしあんまり体調が良くないのかな。とりあえずこれが片付かないと君の暗い表情をなんとかできないよね…
片付け終わると料理が出来上がり僕達はテーブルに戻った。僕がいるときは無口だった女の子は一君と楽しそうにしてた。一君もデレっとしちゃってさ…
「一君、何の話してたのさ?」
「別に今日の講義の内容についてだ。」
「ふーん。彼女と話すとそんなに楽しいんだ…講義の話が。」
「そ、そういう訳では…」
一君、素直じゃないな…からかっちゃおうかな…“君は?”と彼女に聞いてみた。
「斎藤さんは、色々教えてくれるから楽しいです。」
「へぇ…色々ね…」
彼女の言葉に照れて目を見開く一君。初々しいなぁ…
なんだかこの感じ懐かしいな…