「Angel's wing」


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『近藤さん、お粥すごくおいしかったです。』


「そうか、それはよかった。体の方はもういいのかい?」


“大丈夫です”と元気にいうと嬉しそうに“そうかそうか”と頷いた近藤さん。いつものように開店の準備を始めた。


お昼はまあまあの混み具合でお昼休みになったけど帰る様子のない近藤さん。“家に行かないんですか?”って聞いたらもうつねさんはだいぶ治ってきたみたい。


教会…ここの近くにあるって言ってたよね。夜は沖田さんが迎えにくるから今しかない。近藤さんに場所を聞けば駅とは反対方向にあるみたい。


『五分くらいで着くんですね?ちょっと行ってきます。』


“迷ったら電話をしてくれ”っていう近藤さんに笑顔で頷いて私は店を出た。道沿いに行って途中一回左に曲がるとすぐに見えてきた建物。


茶色い屋根の上には十字架…ここだ。こげ茶のドアをゆっくり押してみれば左右に10脚くらいずつの長椅子があって、その間には絨毯がしかれていた。


正面には簡単な柄のステンドグラス…その前には十字架に磔られている神様。


誰もいないはずなのにピンと張りつめた空気を感じ、私の足はひとりでに十字架の前へと進んだ。



その前で膝まづき祈った…


すると人の気配を感じ顔を上げれば土方さんが私を見下ろしていた。


「何が聞きたいんだ、羽央?」


『…試験の相手が愛を知って、私がその人から離れても合格したことになるんですか?』


「ならねえっていうか、最終日に愛してるままっていうのが合格条件だ。」


『そんなこと言ってなかったのに…』


「まあ、細かいこと言ったらキリがねえ。身分を明かすなってのも名前はいい訳だし、あの試験内容の五カ条だけじゃ詳細まではわからねえよな。」



“だから俺がいる訳だ”っていう土方さんはやれやれといった感じだった。愛を知ってもらうために必死だった。最後まで愛していなくちゃだめだなんて…


「もう、あいつに“愛してる”って言ってもらえたのか?」


『えっ…?まだです…』


「じゃあ、まだあいつは愛を知らねえじゃねえか。ついでに言っとくが、試験の相手が自発的に“愛してる”って言わなかったら駄目だ。憶えておけよ?」


『はい…』


初めて聞く試験内容の詳細にうちのめされた気がした。まだ私は合格範囲にいない…落ち込む私に“ほかに質問はあるか?”という土方さん。



“ないです”頭が一杯でとりあえずそう答えるとあたりが一瞬光り土方さんの姿は消えてしまった。



がんばらないと…まだ、終わってない。私はそう自分に言い聞かせながら外へ向かって歩きだした。



レストランに戻ると“総司が来たよ”って下ごしらえをしながら近藤さんが教えてくれた。


…何しにきたのかな?でもそれ以上何を言うでもない近藤さんの作業を手伝った。



  ◇◇  ◇◇  ◇◇


“カラン”


開いたドアを向けば一人でやってきた斎藤さんの表情は千鶴と一緒にいた時のしっかりしたものじゃなくて、どこかしゃんとしてない感じ…


私の記憶はあるはずだよね…“いらっしゃいませ”とメニューとお水を差し出すと“あんたか… ”と力なく私に言った斎藤さん。


『大丈夫ですか、斎藤さん…』


「ああ、総司にも同じことを言われた。俺はいつもと違うか?」


『そうですね…なんだか、少し元気がないみたいで心配です。』


“あんたは優しいな”っていう斎藤さんの顔はどこか寂しそう…記憶を消されても何か心に残るものがあるのかな。


注文を聞いてオーダーを入れた。金曜の今日はお店は混んでいたけど、斎藤さんが気になってちょくちょく見てしまう。


私が心配する必要はないけど…



席が満席になった頃、沖田さんがやってきた。“僕も手伝うよ”そういって予備のエプロンをつけると手際よく近藤さんの補助をしていた沖田さん。


思っていたよりスムーズに料理を出せた。視線を感じて振り向くと斎藤さんが私をじっと見てた。


テーブルには食べ終わったお皿。下げた方がいいよね?斎藤さんのテーブルに向かった。


『お皿お下げしますね。』


「ああ、頼む。」


お皿をお盆にのせたけど斎藤さんの視線は私から逸れることはなかった。何か言いたい事があるのかな?早く出来上がった料理を運ばないと…


『どうかしましたか?』


「いや、あんたを見ていると懐かしい感じがするんだ。何故だろうな…」


『……』


私は何も言えなかった。記憶はなくても感覚は残ってる…千鶴と私は天使の見習い同士…似たものを感じるのかもしれない。


愛を知ってもこんな状態にされて人は幸せになれるのかな…


千鶴の記憶を消された斎藤さんは、遠くへ追いやられた愛する者の記憶を探しているみたいでなんだか胸が痛んだ。


「羽央ちゃん、何してるの?早く運んでよ!」


『すっ、すいません…』


私は急いででき上がった料理を運んだ。ぼんやりする斎藤さんはお客さんの大半が帰るまで一人座っていた。


ここで千鶴と過ごした時を思い出そうとしてるみたいに…


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