「Angel's wing」
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ベッドに寝ている羽央ちゃんの顔は熱があるのに青白い。風邪くらい誰でもひくとは思うけどなんだか僕は不安になった。
家出をして保険証も持っていない羽央ちゃんを医者には連れていけない。何か聞かれたらまずいよね…
僕の家には何もない…とりあえずコンビニで必要なものを買うしかない。すぐにジャケットを着て外に出た。
お風呂から出たばかりの僕の体は暖かいけど乾燥してる冷たい空気は肌に突き刺さり、疲れてるはずなのに強制的に頭が冴えわたる感じだった。
急がないと…
そんな僕の足はひとりでに走りだしていた。コンビニには薬は置いてなくて風邪の時の栄養補給にっていうドリンク剤しか売ってなかった。
ないよりましかと籠にほうりこんだ。あとはヒエピタとかお粥やら…とりあえずこれを飲んで冷やすしかないよね。
急いでベッドにいくと仰向けの羽央ちゃん。うつ伏せになれないくらい苦しいのかな…
とりあえずおでこにヒエピタを張るとビクンとなったけど目は覚まさない。
「羽央ちゃん、これ飲める?」
肩を少し揺らしてみたけどうんともすんとも言わない。寝たまま飲ませたらむせちゃうかな。
僕…苦いの嫌いなんだけどな…
ゴキュ…僕は茶色の小瓶の蓋を開けた。すぐさま嫌な薬品臭い匂いがしたけど羽央ちゃんの為だ。
小瓶をかたむけ自分の口に含んだ。鼻孔へその香りが流れて気持ち悪い…眉間に力が入っちゃうけど、ゆっくりと君へ近づいた。
熱があるからかすこし苦しそうに息をする口は開いていて、唇に口づけるとそれは熱くて焦ってしまう。
急いで飲ませたい気持ちを押さえて、むせないようにゆっくりと君の口へと流しこんだ。
少しするとコクンと喉がなる音が聞こえ、徐々に僕の口にあるものを飲ませていった。
こんな苦いものを飲まされても無反応なんて…全部飲ませ終わった僕は自分の口の中の苦さに気持ち悪くなった。
何か飲まなくちゃ…冷蔵庫に行くと水しかなくてとりあえず一気に飲んだ。こんな時ビールがあればすっきりできるのに。
帰りにコンビニに寄らなったのも、コンビニに買物に行ったのも羽央ちゃんのせいだけど、毎日のように飲むビールのことすらどうでもよくなっちゃうんだ。
僕はベッドに横になったけど羽央ちゃんのことが気になって眠れなかった。肘を立て頭を支えるように横を向くといつもはみれない君の寝顔。
苦しそうな表情に何もしてあげられない自分が悔しい…
栄養剤じゃだめかな…額に手をのせれば冷やしてるのに伝わる熱に僕の不安は増していく。
「羽央ちゃん。早く良くなってよ。」
そんな僕の声は酷く弱々しかった。僕はただ君を見つめているだけ…その唇をみれば僕のと触れたことを思い出した。栄養剤を夢中で飲ませただけだけど。
女の子とキスするのを避けてたのに、自分からしたことに少し驚いたけど、羽央ちゃんとのキスは嫌じゃなかった。
本音を言えば嬉しかった。
羽央ちゃんの為なら寒さも苦さも気にならない…僕はどれだけ君に夢中になってしまったのかな。
手のしびれを感じて僕はゴロンと体勢を変え天井を見つめた。二人で寝るときに見える天井に違和感を感じなくなっていた。
羽央ちゃんが隣にいることが僕の中で当たり前になっていることに改めて気付かされた。
暫くするとさすがに体の疲れを感じてうとうとするけど羽央ちゃんが気になって目が覚めてしまう。
おでこを触っても下がらない熱にため息をついてまたうとうとする。それの繰り返しだった。
いつの間にか外が明るくなりはじめて僕は完全に眠れなくなった。仕方なく壁にもたれ君の寝顔を見つめていた。
『ぅ…。』
「羽央ちゃん。具合どう?」
『体が痛くて…だるいです…』
顔色は少し良くなってたけど呟く程度にしか出てない声…具合が悪いのは変わりなくてつらそうだ。
もっと冷やさないとだめかな…ヒエピタを剥がして君のおでこに手を当ててみた。熱いな…
あの栄養剤…空腹で飲んだら胃に悪いよね。お粥買ってきたし少し食べた方が早く治るはずだ。
僕はキッチンに行って買ってきたお粥を温めた。開けてみるとかなり流動食みたいだけど…これなら食べやすいかも。
寝室に行くととぼんやりと天井を見つめる君はいつもの元気はなくて心配だよ…
「羽央ちゃん、起きれる?」
声をかけると君はゆっくりと上体を起こし座った。僕はトレイをベッドに置くとスプーンですくったお粥を君の口元にもっていった。
いつもよりゆっくりと食べる羽央ちゃんはお粥すら飲み込むのがつらいみたいだ。
『沖田さん…もういいですか?』
半分も食べてないのにそういう君…そんなんじゃ良くならないよ。でも少し食べたから栄養剤飲めば大丈夫かな。
小瓶を渡すと“何ですか?”って聞き返された。栄養剤なんて飲んだことないんだろうね…こんな不味いのなんて飲みたくないし。
“とりあえず飲んでよ”って言えば小瓶をゆっくりと傾けた。そんなにちびちび飲んだらよけい不味いのに…
眉間にしわ寄ってるし…でも飲まないよりは飲んだ方がいいから、がんばってよ。心の中で応援しているとなんとか全部飲んだ羽央ちゃん。
「それホント苦いよね、はい水。」
その栄養剤の後味は最悪だよね。水を渡すと一気に飲み干したけどまだ苦いよね。わかるよ…僕もそうだったから。
でも羽央ちゃんが目を覚ましてくれて少し会話できただけでほっとした。あのまま目が覚めないんじゃないかって不安になってたんだ。内緒だけど…
安心した僕は欠伸が出た。熱は下がってないけど、少しは元気になりつつあるってことだよね。あとで薬買ってこないと…
まだ7時だ…食器を片づけるとヒエピタを貼った。“つ…冷たい!!”そう声を上げる羽央ちゃん。夜はこれを貼っても目も覚まさなかったのに。
バイトは僕が変わってあげるしかないな。近藤さんに迷惑をかけるわけにはいかないし、羽央ちゃんが病気だからって言えば近藤さんも僕が手伝うっていってもダメとは言わないよね。
バイトは僕が行くからというと大学の事を心配する羽央ちゃんはどこまで優しいんだろうね。
でも遊園地で遊んだあとに殆ど寝れてなくて限界だった。横になると瞼が落ちてきた…眠ることが恐くなかったんだ。
羽央ちゃんがいるだけで…