「Angel's wing」
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ポップコーンを買って沖田さん達の所に戻った。千鶴は“一さんに食べさせてあげよう”って嬉しそう…
試験をクリアできるところまでいった千鶴はほっとして、リラックスできてるみたい。
そんな千鶴と私は正反対。私が沖田さんに恋してしまっている。今までのわからない気持ちの答えがみつかったのに、不安だけが増していった。
千鶴は宣言どおり斎藤さんにポップコーンを食べさせて、嬉しそうに千鶴を見つめる斎藤さんの顔をみていたらなんだか切なくなった。
どんどん近くなる千鶴と斎藤さんの距離。私と沖田さんは手を繋いでも一度離れてしまえばそれでおしまい…
「羽央ちゃんは、何味買ったの?」
『私は、しょうゆバター味で、千鶴はキャラメル味です。』
急に話かけられて慌ててそう答えると“食べたいな”って言われてキャラクターのついたケースを差し出した。
お菓子を食べる沖田さんは初めてで、お菓子が嫌いなわけじゃないんだなぁなんて見つめてしまった。
「おいしいよ。羽央ちゃん…はい。」
沖田さんがポップコーンを私の口元にもってきた。食べさせてくれるの?口を開くと舌には硬い感触と香ばしい香り…
だけど口元にいくつか当たった感触がして、下にポップコーンが落ちてしまった。
落ちる前に受け止められるかなと思ったけど沖田さんの手にぶつかって間に合わなかった。
『すいません。沖田さん…』
“何やってるのさ”なんて怒られるかと思ったのに“大丈夫だよ”っていう沖田さんに優しさを感じるのは私が好きだからなのかな…
「はい。羽央ちゃん!」
『えっ?沖田さんも食べてくださいよ。』
「羽央ちゃんが買ったんだから、君が食べるべきでしょ?」
『それは…そっモグモグ…』
そう言って私の口にポップコーンを投げ込む沖田さんはいつもより楽しそうで、そんな顔が見れるなら沢山食べようって思った。
だけどすぐに口の中の水分はポップコーンに持っていかれて喉が渇いてしまった。飲み物を買ってこようとした時、沖田さんの指が見えた。
ポップコーンの油で汚れていた。食べさせてもらっていた私の手は綺麗なまま…面白半分で私に食べさせてくれたのかもしれないけど…
今日の沖田さんは私をすごく気にかけてくれていたから、その指すら私の為なんじゃないかと思ってしまった。
だってテッシュを差し出したら“ありがとう”って言ってくれたから。私が沖田さんの優しさに気付いたことへのお礼だと思う。
私は沖田さんのコーヒーも買った。さっき口に触れた指は冷たかったからきっと沖田さんは温かい飲み物が欲しいんじゃないかと思ったから。
コーヒーを渡すと嬉しそうな笑顔が見れた。私が自分で考えてしたことを沖田さんが喜んでくれて、私の鼓動は落ちつきをなくしていく。
心を落ちつけようと紅茶を飲んだ。喉からお腹に流れ落ちる感覚にほっと息をついた。
“次はあれに乗りましょう?”っていう千鶴をみて気持ちを切り替えた。“楽しもう”って。
すれ違う人達は楽しそうにおしゃべりしたり、いろんなキャラクターグッズを売ってるワゴンが見えて私はキョロキョロしていた。
沖田さんの視線を感じて“どうしたんですか?”って聞くと“写真あとで撮ろうよ”って。
『はい。撮りましょう!』
私は元気にそう答えた。千鶴の部屋にあった写真…二人の写真に憧れてた。千鶴が言ってた通り出かけないと写真なんて撮らないものなんだ。
ジェットコースターに乗って外に出ると綺麗な夕焼け。風が強いからか細切れにされた雲が散らばっていた。
薄い雲は夕焼けに照らされてその姿を紅色に変え、存在を主張するように縁は輝いていて宝石みたいだった。
「きれい…」
いつもはお店にいる時間でこんな幻想的な空をみたのは初めてだった。
お城の前で写真を撮ることになってみんなで行くと“撮ってあげるよ”っていう沖田さんの声で並んだ千鶴と斎藤さん。
寄り添うような二人は千鶴の部屋でみた写真とはちがっていて幸せなオーラがでていた。
“よかったね千鶴”素直にそう思うけど一つだけ気になることがあった。
【千鶴が戻ったら、斎藤さんはどうなるの?】
詳しいことは私達には知らされてない。私達は天上界に戻れば地上にいた時の記憶はなくなってしまう。
…だけど試験の相手の人は?記憶を持ったままってことはないよね。そのままだったら天使を探す人がたくさんでてしまう。
記憶消されちゃうんだよね…
楽しい思い出も…
この幸せな時も…