「Angel's wing」


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何度か乗り換えた電車はだんだんすいてきた。一君達と一緒に立っていると目的地が見えてきた。



『あっ!!お城!!』


「あはは…羽央ちゃん声、大きすぎ…」


そんな大きな声なんて初めて会った時以来じゃない?羽央ちゃんの目は子供みたいにきらきらしてた。



僕の所に来て二週間位かな…これといって遠出をしたことなんてなくて、連れていけばその笑顔を一人占め出来たのかななんて考えてしまう。



でも、羽央ちゃんが楽しそうにしてると僕もなんだか嬉しいよ。人混みが好きじゃない僕が遊園地なんて柄じゃないけど。



それは一君も同じかな。一君がジェットコースターとか乗ってるのなんてイメージじゃない。でも電車の時点でこんなにはしゃぐ二人を見たらね…



一君なんて改札を出たら千鶴ちゃんに手を離されてた。千鶴ちゃん…それはまずいんじゃないかな?



ちらっと一君をみれば少し寂しそうだよ。でも女子二人はテンションが上がる一方。


僕と一君は後ろからついていくしかない。あのはしゃぐ中にはさすがに入れない。


「ねえ、一君。もしかして千鶴ちゃんとまだ寝てないの?」


「なっ…何故…総司には関係ない。」


「でも遊園地に来て彼氏をほったらかしなんてあり得ないよね。」


手を繋いでたし、一君は好きだよオーラ全開だから二人は確実に付き合ってると思ってそう言ったけど無言の一君。



「…まさか、まだ告白してないの?」


「……」


答えない一君に“それじゃ置いてかれるわけだ”と言えば“今日こそ…想いを…”なんて俯く姿にはいつもの強さはない。



「ふーん。一君が告白…夜までにすれば、ロマンチックなキスができるね。」



“何を言ってるんだ!”なんて照れる一君はやっぱりむっつりだね。話に夢中になっていて前に視線を向ければ二人がいない。



「あれっ?どこに行ったのかな?」


「総司あそこだ!!」



一君の指をさす方向をみればかなり小さい二人の後姿。どこを目指してそんなに走ってるのさ…



“千鶴は方向音痴だ”って血相変えた一君はすごい勢いで走り始めた。ちょっと勘弁してよ…僕、寝不足だから…



でも一君は走るのをやめない…仕方なく僕も走って彼女達に追いついた。二人が止まったのはアトラクションの前。



多分最初はここに来るつもりだったんだね。でも置いてけぼりっていうかはしゃぎすぎもここまでいくとね…



「はぐれたらどうするのさ?」
「はぐれたら困るだろう…」



一君の言葉に申し訳なさそうに謝る千鶴ちゃん。なんか…小さなウサギみたいなかわいさ。これじゃ一君も許しちゃうでしょ…



“心配しただけだ”っていう一君の顔は冷静ないつもの顔。千鶴ちゃんは一君にとって万能薬みたいだね。


羽央ちゃんを見ると“すいません”って謝ったけど、僕に怒られ慣れてるせいかしゅんとすることもない。



僕は名前さえ呼んでもらえないんだ…



そんな子供みたいなことを考えてるなんて知られたくない。走ったせいか喉が渇いたなアトラクションは一時間後だし、ちょっと休憩をとった。



飲み物が運ばれてきて一息つくと僕は計画を立ててそうな千鶴ちゃんに声を掛けた。



「千鶴ちゃん、今日の回る予定は立ってるの?」


「はい!!もちろんです…最初は…」



もう走るのは嫌だからね…予定を聞いておけばはぐれても大丈夫。



こんなに舞い上がってたら携帯に連絡した所で“聞こえませんでした”なんて平気で言われそうだしね。



ずいぶんしっかりした計画だった。ポップコーンを買う所まで計画に入ってるなんて。一君を見ると…



無表情を装ってたけど心の中は驚きと…多分そんなに乗り物に乗るのかっていう不安が渦巻いているのがわかる…少しだけ下がっている眉でね。



僕が一君をからかうより千鶴ちゃんの方が一君を動揺させるなんて、すごく面白いよ。



「あはは、千鶴ちゃん…さすが一君の彼女だね。むしろ一君よりも計画性があるね…似たもの同士だよ。」


「…総司!!」


「そうですか?ふふっ。似てるって言われるとなんだかくすぐったいです。」



僕が“彼女”って言ったからあせる一君。これだけ言っても千鶴ちゃんは気付かないんだもんね。



千鶴ちゃんはアトラクションについて一君に説明してたけど、それは逆に彼の不安を煽るだけじゃないかと思うよ?



“そうか”としか言わない一君を見ても何も気づかないんだから千鶴ちゃんはちょと鈍いよね。



羽央ちゃんを見ればそんな二人を優しい目で見ていた。そんな眼差し僕は向けられたことないな…



それはきっと僕が優しくないからなのかな…




外に出れば突風が吹いて羽央ちゃんの髪がぼさぼさになった。サラサラしていて綺麗な髪なのに…



思わず髪にふれると思ってたより柔らかい髪でそっと手櫛で直した。“もっと触れたい”そんな感情が一瞬で僕を支配した。



だけど羽央ちゃんと視線が合うと僕は手は引っこめてしまった。



綺麗な瞳はまっすぐに僕をみていて、僕の本心に気づいてしまうんじゃないかと思った。



好きだっていう気持ちと一緒に湧き上がるもうひとつの気持ち…



僕と羽央ちゃんは不釣り合いじゃないかなって。君は世間知らず。僕は汚れてる…



一君達みたいに似た者同士じゃないから…


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