「Angel's wing」
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電車を何度か乗り換えると座席は空いてないものの立ってる人はまばらになってきた。
千鶴と斎藤さんと一緒に立っているとお城が見えてきた。“あっ!!お城!!”思わずそういってしまったけど…
「あはは…羽央ちゃん声、大きすぎ…」
そういう沖田さんの言い方は明るくていつもとは違う。少しは出かけるの楽しんでくれてるのかな…
“羽央、予定通りにね!”って千鶴に言われてコクンと頷いた。千鶴の家に行った時にガイドブックを見てから、この一週間できっちりと予定を立てた私達。
電車を降りればなんだか日常とは違う光景にわくわくしてしまう。千鶴もそれは同じだったみたいで“ほらあれ本と一緒だね”なんて言いながら足早な私達。
千鶴はいつの間にか斎藤さんの手を離していて私の横にいた。ふりむくと男性陣は数歩後をついてきてたけど普段の顔つき。やっぱりあんまり好きじゃないのかな…
フリーパスを買って中に入ると私達の興奮は高まる一方だった。“ファストパス取らないと!!”そんな力強い千鶴の言葉に“あっちだよね?”と確認すると一層速くなる足…っていうか走ってるに近い。
「今からだと、どれくらいで乗れるかな?」
『わからないけど…急ごう!!』
私の言葉に真剣な顔で頷く千鶴と二人で走りだした。アトラクションに着いて冷静になると沖田さん達の事を忘れていたことに気付いた。
振り返ると走ってくる二人が見えた。でもその顔は明らかに不機嫌そう…
千鶴にはいつも優しい表情を向けている斎藤さんですら眉が上がっていて怒ってるみたいだった。
「はぐれたらどうするのさ?」
「はぐれたら困るだろう…」
あきれるような沖田さんと心配するような斎藤さん。その違いが私と千鶴の位置の違い。
「一さん、すいません。」
しゅんとして謝る千鶴に“怒っているわけではない。心配しただけだ。”っていう斎藤さんはいつもの表情に戻っていた。
沖田さんを見ると“君は?”みたいな視線に“すいません”というと不服そうな顔をしていた。
千鶴みたいに可愛く謝れば違うのかな…
ファストパスを発券に行くとパスは一時間後だった。他のに並んでたら間に合わないかな…
「僕、喉乾いたな。それ一時間後なんでしょ?お茶しようよ。」
沖田さんがすたすたとレストランに入ったから私達も続いた。中は暖房がきいてて暖かい…外は天気が良かったけど風が強くてやっぱり寒い。興奮しすぎで気付いてなかったけど…
四人掛けのテーブルに案内され座ると、すぐに注文した飲み物が運ばれてきた。
「千鶴ちゃん、今日の回る予定は立ってるの?」
「はい!!もちろんです…最初は…」
そう言って楽しそうに説明する千鶴が一通り話終わると沖田さんは堪えきれないって感じで笑いはじめた。
「あはは、千鶴ちゃん…さすが一君の彼女だね。むしろ一君よりも計画性があるね…似たもの同士だよ。」
「…総司!!」
「そうですか?ふふっ。似てるって言われるとなんだかくすぐったいです。」
斎藤さんは沖田さんの言葉を遮ろうとしていたみたいだけど、千鶴のことばに頬を染めた。
千鶴の一言で態度が変わってしまう斎藤さんは千鶴のことが好きだっていう雰囲気が本当に素敵だと思う。
千鶴のアトラクションの説明に“そうか”としか言わない斎藤さんは、千鶴が言っていた通りあんまり興味がないんだと思う。
それでも一生懸命話を聞いて二人の時間を共有しようとしてるのがわかる。相手を思いやる…合わせる…そんなのも愛なのかも。
千鶴の話をきいてると時間が経つのはあっという間でアトラクションに向かった。外に出ると後から風が吹いてめちゃくちゃになった私の髪の毛。
「羽央ちゃん、大丈夫?」
そう言って髪を手櫛で直してくれた沖田さんの手は壊れものを扱うように繊細で…胸がキュンとした。今日の沖田さんはすごく優しい…
なんだか沖田さんらしくなくて視線を合わせることすら気恥ずかしい気がしてしまうけど、顔を見上げればその翡翠色の瞳にひきつけられてしまう。
目が離せない…
瞳の奥にある優しさは本物…