「Angel's wing」
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「羽央ちゃん、猫…連れて帰って。僕はちょっといるもの買ってくるから。」
聞き間違えたんじゃないかと思ったけど沖田さんの表情はからかった様子もなくて今までみたことない真剣な表情だった。
嬉しかったけど猫を連れ帰って沖田さんに迷惑がかかるんじゃないかと素直に喜べなかった。
そんな私の気持ちを察してくれたのか“大丈夫”そう言って頭をポンと叩く沖田さんはいつも近藤さんに向けているような表情…
その優しい瞳が私に向けられていることが凄く嬉しくて私は初めて緊張から解放されて心から笑った気がした。
沖田さんはマフラーを取ると私に巻いてくれた…寒がりなのに…そんな優しさを目の当たりにして喜びより驚きを感じてしまった。
だけど首に巻かれたマフラーは沖田さんの温もりだけじゃなくて私に向けられた思いやりを感じて私の心は温かいもので満たされていった。
『温かい…』
人の気持ちは言葉にしなくても伝えられることがあるんだ…態度でも…
さっきまでは言葉で伝えなくちゃと思っていたのに…結局正解は見つけられない。その時々…人それぞれ違うのかもしれない。
でも沖田さんが飼おうと思ってくれたのが嬉しくて猫と缶詰を抱えると“先に帰りますね”と家に向かった。
“飼えない”と言っていた沖田さんがこの猫を連れて帰ろうと思った理由はわからないけど、きっとこの猫は沖田さんに出会う為に公園にいたんだ。
でも寒い所に長い時間いた猫はなんだか元気がなかった。早く暖かい部屋につれていってあげないと…私の足は自然に速くなった。
部屋へ行くと暖かさにほっとしたけどマフラーから出した猫の体は濡れていてブルブルと震えていた。ドライヤーで乾かそう…
スイッチを押すとブォーという音に驚いて逃げようとする首元を押さえると、猫は諦めたように温風に身を任せた。
乾くとガリガリだった体は猫らしい体つき、明るい茶色の毛になった。“ニャーニャー”鳴きだした猫を離すと膝まづいていた私にすり寄ってきた。
お腹すいたのかな…持ってきた缶詰をお皿にいれるとすごい勢いで食べはじめた。でもその姿がなんだか勇ましくてさっきまでの震える猫より目が離せなかった。
“ガチャ”とドアが開くと大きな荷物を持った沖田さんが帰ってきた。リビングにいた私が“おかえりなさい”と玄関に走っていくとふうっと息をついた沖田さん。
『その荷物…なんですか?』
「ただいま羽央ちゃん。これ?猫にいるもの。」
そういってビニールから出した屋根がついた箱の中に砂を入れた沖田さん。それを玄関の廊下に置いた。
荷物の袋からお皿を取り出すと水をくみ廊下にマットをしき水とからのお皿を置いた。考える様子もなく用意する沖田さん…
『猫…飼ってたことあるんですか?』
「…ん。まあ…」
力なくそう言った沖田さんは悲しそうで…いつもとは違う表情に私は余計なことを言ってしまったと後悔した。
無言でがさがさビニールを片付ける沖田さんになんて声を掛ければいいのか悩んでいると目の前には棒が差し出された。
黄色い棒にピンクのモコモコがついてるけど…不思議そうに見つめる私に一本持たせた。
沖田さんが“こうやるんだよ”ともこもこを床につけて左右に振った。
すると餌を食べていた猫がリビングのドアの隙間からこっちを覗いていた。
“猫が…”そう言ったけど“しっ!!”と小さく言われ私は口を噤んだ。
沖田さんは右に左に細かく振ると猫は少しづづ近づいてあと50cm…そんな所まで来て体を小さくした。
だけどその目はピンクのモコモコに釘付け…動かす度に猫の顔も右左にぶんぶん動いた。
“あっ…”気付いた時にはモコモコに飛びついた…けど沖田さんが棒を上にあげると猫もジャンプした。
沖田さんを見ると楽しそうな表情…猫を遊ばせてるけどモコモコ捕まえさせないんだ…
ちょっと意地悪な気もしたけど、いつもの沖田さんに戻ったみたいでちょっと安心した。
猫に向けられる自然な表情…
刺々しさのない沖田さん…家で目にしたのは初めてだった。