「Angel's wing」
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『左之さん…何してるんですか?』
「何って、俺はここの4年生だからな。羽央こそ何してたんだ?まさか俺を待ってたのか?」
私がそんなことしないのわかっていてそう言うのは、私がここにいる理由を問い詰めないようにっていう気遣い。
軽い人に見えがちだけど左之さんは優しい。左之さんなら沖田さんの事知ってるかな?近藤さんと知り合いだし…
『沖田さんを待ってるんですけど、左之さん知ってますか?』
「沖田って…総司か?」
左之さんが知ってたことが嬉しくて“はい”と元気に答えるとその表情が一瞬強張った。
その理由がわからず“どうかしたんですか?”と聞くと“あっ…気にすんな…”と頭を撫でられた。
「総司はなんか教授と話してたから長くなると思うぜ。ここじゃ寒いから中で待とう。」
中に入って先に帰られたららどうしよう…そんな事を思ってたけど“門が見える場所があるから大丈夫だ”っていう左之さんの後について行った。
そこは5階の角の部屋で窓からは門も駅も見えた。日が少し傾き空が少し暖かみを帯びた色に変わり始めていた。
『綺麗…』
「ああ…空か。……空は綺麗だよな。」
“ほらっ”ここにくる途中で買った紅茶をくれた左之さんにお礼を言って飲み始めた。窓際の椅子に座り門を見つめた。
門は見えるけど気付いた時に追いつけるかな…レストランに来る時はいつも話しかけてくる左之さんだけど、今日は無口だった。
暫く外をみてたけど沖田さんが出てくる気配はなくて、私はバックから携帯を出した。開くけど着信もメールもない。
「携帯持ってたのか…」
『沖田さんが買ってくれたんです。』
“そうか…”といって私から視線をそらした左之さん今日は様子がおかしい。
黙っている左之さんを見つめていると顔をあげ真剣な視線を私に向けた。
「羽央は総司と付き合ってるのか?」
『……』
一緒に住んでるけど斎藤さんと千鶴みたいな関係じゃない…沖田さんは私を居候にしか思ってないと思う。
なんて返事していいか分からなくて困る私に少しだけ強い口調で左之さんは言った。
「総司はやめとけ。あいつはまだ愛ってものを知らねえんだ。羽央は総司の事が好きなのか?」
『好きです。』
心配そうな左之さんに私はきっぱりと言った。天使は嫌いな人なんていない。どんな人にもいい所があるし愛すべき所がある。
何故そんなことを言うのかわからなかったけど左之さんからみても沖田さんは愛を知らないってわかるんだ…
逆を言えば左之さんは愛を知ってるってこと。だから私にも気をつかってくれるんだ。
“そうか…”と呟き俯いた左之さんの表情はいつもと違ってどこか影を感じたけど、私が言いたくないことに触れない左之さんに無理に声を掛けれなかった。
視線を外に向ければ門の手前を沖田さんが歩いてるのが見えた。
『沖田さんだ!!私帰りますね、紅茶ごちそうさまでした。』
そういって椅子から立ち上がると頭を下げてドアに向かった。
「ああ、またな…」
そう言う左之さんの声は暗かったけど私は気にせず“はい”というと廊下に出てドアを閉めた。
携帯を取りだし沖田さんに門で待っいて下さいと伝えると私は走りだした。
「羽央ちゃん。何してたのここで?」
門につくと沖田さんは不機嫌そうな顔をしてた。教授と話してる時に電話しなくてよかった…
『千鶴が遊園地に四人で行こうって…だめですか?来週の水曜…レストランがお休みの時に…』
「別にいいけど一君がそんな所に行くの?大学休んで?」
『…はい。じゃあ行けるって千鶴にメールしますね!』
そんな私を置き去りにして沖田さんは歩きはじめた。“沖田さん行ってくれるって”そうメールを送ってすたすたと先を行く沖田さんに小走りで追いついた。
あの遊園地に行けるんだ…そう思うとなんだかうきうきしている私がいた。
そんな私とは対照的に左之さんが窓から私達を心配そうに見てたなんて気付いてなかった。
私には沖田さんしか見えてなかったから…