「Angel's wing」
□03
1ページ/8ページ
沖田さんと千鶴とは頻繁にメールしてたから大分速く打てるようになったと思う。
明日はレストランがお休みの水曜日。近藤さんからバイト代は週払いだからって封筒を渡された。
千鶴からお茶しようよって誘われてどうしようと迷っていた私は嬉しくて“ありがとうございます”と体を折り曲げるようにお礼を言った。
“少なくてすまないが…”なんて眉を下げた近藤さん。沖田さんには洋服や携帯を買ってもらってたからこれでなんとかなるって思った。
『あの…明日お店お休みで…千鶴に会いに行ってもいいですか?』
「別に僕に気をつかう必要ないんじゃない?それともお金がいるの?」
『そんな事ないです。バイト代もらったから…これで洋服と携帯のお金返します。』
そう言って近藤さんから渡された封筒を差し出したけど受け取らない沖田さん。
「女の子にあげた物のお金なんて受け取るわけないでしょ。それは羽央ちゃんが働いたお金なんだから好きに使いなよ。」
そう言われると沖田さんの好意を無駄にするのも申し訳なくて“ありがとうございます”と封筒をしまった。
次の日の午後、待ち合わせした駅にいくと既に待っていた千鶴。
沖田さんも斎藤さんもいないから気が抜けてはしゃいだ。
「ねえ、羽央。おいしいケーキ屋さんがあるんだ!行こうよ!」
『本当?楽しみ!!』
千鶴についていくと小さなカフェつきのケーキ屋さんがあった。紅茶とケーキを頼んで千鶴の話を聞いていた。
斎藤さんとは買物や映画にいったりしてるっていう千鶴。人間界にいるのも来週の金曜日まで。土曜の0時にはいなくなってしまう。
「ねえ、羽央。私もいれるのあと少しだから行ってみたい所があるの」
『斎藤さんとは行けないの?』
「一さんはあんまり好きじゃないみたいなの…でも、羽央と沖田さんが行くっていえばきっと一さんも行ってくれると思う。」
『…どこなの?』
そういうと千鶴が携帯を開いて見せてくれた。そこにはお城…“何があるの?”と聞く私に“夢のような遊園地”と微笑む千鶴。
すごく楽しそうな千鶴の顔…こんな顔みせたら斎藤さん絶対行くと思うけど。携帯を取り出して沖田さんにメールしようとした私。
「羽央携帯じゃ断られるかも…直接会って約束しちゃったって言ってみたほうがいいかもしれない…」
『沖田さん大学に行ってるし、どこにあるか…』
“私が知ってるから大丈夫”そういう千鶴に引っ張られるように駅に向かった。三つ目の駅で降りるとホームから千鶴が指差した。
“ほらあそこ”駅からは大きな建物が見えた。改札を出て建物に向かい歩くと大きな門があって中へと入った。
三時すぎの学内は講義中なのか歩いてる生徒は少なかった。千鶴についていくとカフェテリアで私達の他には数人の生徒しかいなかった。
『千鶴は来たことあるの?』
「こっちに来たばかりのころに文化祭があって連れてきてもらって。見て回ってるうちに一さんと打ちとけたの。」
そういう千鶴はどこか懐かしそうな目をしていた。天上界に戻り天使になれば地上で経験したことは忘れてしまう…
それがわかってるから今という時間を大事にしたい…そんな気持ちが手に取るようにわかった。
暫く話をしてると人が沢山出てきた。まわりをきょろきょろしたけど沖田さんは見当たらない。私達に向かってくる人が見えた。
「千鶴、どうしたのだ?」
私達がここにいる事に少し驚いたような斎藤さん。
「羽央ちゃん、大学来たことないっていってたから。お茶してたんです。一さんはもう講義終わりですか?」
だけど笑顔の千鶴に“ああ、帰るか?”と嬉しそうにその表情を緩めた。一瞬で変わる斎藤さんの雰囲気は優しくてみているだけでほんわかとした気分になる。
“沖田さんに言っておいてね。後でメールする。”そう私の耳に手を当て囁くと、千鶴は斎藤さんと手を繋いで外へと出ていった。
一人取り残された私は仕方なく席を立つと沖田さんを探して学内を歩いてみた。これだけ人がいるなら“沖田さん知ってますか?”って聞いた方が早いんだろうけど…
嫌がられるよね。でも千鶴が言ったように携帯で遊園地行きますか?なんて言っても断られそうだし…
沖田さんも帰るんだとしたら門を通るはず。私は門の所で沖田さんを待つことにした。
人の流れが一区切りしたけど沖田さんは通らない…もう帰っちゃったかな。
「羽央じゃねえか?」
その声に顔を上げると左之さんだった。