「Angel's wing」


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「羽央、おまえも20歳。天使への最終試験へ向かう時が来た。これを。」



そう言って渡された巻物を開くと書かれていた最終試験の内容。



1.愛を知らない人に愛を教える
2.その身を汚すべからず
3.身分を明かすべからず
4.期限は一ケ月
5.できなければ消滅する



『大天使様。行ってまいります。』



そういうと私の頭に手をのせた大天使様が“御加護を…”そう言って優しく微笑えむと背中の翼はなくなり羽根のついた靴になった。




そして頭の中に光につつまれた人が浮かんだ…私の試験の相手。茶色い髪に翡翠色の瞳。“沖田総司”その人が…



大天使様に膝まづき胸のところで指を組んだ手をつくり、ゆっくりと大きく息を吸い込んだ。



決意を胸に目を閉じ祈ると、私のまわりが瞬く間に違うものに変わったのを感じた。



初めての感覚に思わず目を開けた。寒い…



目の前にはマンション。ここに彼がいるのかな…辺りは暗くて夜なのはわかるけど…



空を見上げると白いものが落ちてきた。雪…初めてみたけどそれは私が生まれた時に似ていた。



透明で球体の魂…それが天使の羽根が触れ合うと天使の見習いとして誕生する。


それができない魂は白い色へと変わりそのまま人間界へと送りだされていく…



はらはらと揺らめきながら落ちてくる白い雪は、まるであの時まわりにあった魂のようで私は思わず手を出した。冷たい…



手に落ちた雪は一瞬で水滴にかわり丸い球体になった。



天上界は変化があまりない世界。愛に溢れていて平和で…



天使は天上界にいると温度を感じないし食事もしないから味覚もない。大天使様の愛を感じるだけで生きていける。



初めての感覚に自分が人間界に来たことを実感した。次々舞い降りる雪…空気も温度も…天上界とは別世界…



わくわくして私は声をあげてはしゃいだ。



「あんたうるさいわよ。何時だと思ってるの?」



顔を上げると建物の二階の窓から女の人が怒っていた。“すいません”そう謝るとその女の人の後に上半身裸の男の人が立った。



「ねえ寒いから窓閉めてよ。僕、風邪ひいちゃうじゃない。」



そう言ってベランダの窓を閉めようとする彼の顔を見て私は叫んだ。



『沖田さん!!待ってください!!』



「僕は君なんて知らないよ。」



冷たい声でそう言うと沖田さんは窓をぴしゃりと閉めカーテンを引いた。



その時に見えたのは今まで私が向けられた事のない軽蔑するような眼差しでその冷たさに私の心は震えた。


カーテンが閉められた部屋は小さな明かりが灯されていたけど、動かないカーテンは全てを拒絶してるようで私はそこに立ちつくすしかなかった。



二週間位前に人間界に降りた千鶴…どうしてるかな。誕生日も近くて姉妹同然に過ごしていた。



前向きで笑顔が可愛い千鶴。きっとがんばってる…私もがんばらないと。



一ヶ月はどんなことが起きても天上界には戻れない。でもどうしたら沖田さんのそばに行けるのかな…



街灯に照らされはらはら落ちてくる雪を見上げた。その空は暗くて光に充ち溢れている天上界と繋がってるとは思えないけど…



さっきより大粒になった雪は天使の羽根みたいだった。


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