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□08.ドロップモーション
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沖田side


『やめて!斎藤先輩!』



彼女の声が響いた。



「このまま総司を許すのか?」



僕に対する怒りで冷静さを失う一君。僕が昔感じた気持ちはこんなものじゃなかった。怒りを通り越して悲しみ…苦しみ…



『もういいです…』



そういって俯き胸元を押さえた彼女。震えていた…僕が彼女を傷つけ苦しめてしまったことに言い訳などできない…




彼女の一言で一君はいつもの彼に戻っていた。いや、昔の彼に…



――――――――――――


療養所にいくことになった僕。出立の前夜、一君が僕の部屋にやってきた。



「何の用かなぁ一君。お別れの挨拶?それとも彼女を自慢しにきたの?」



からかうつもりが地の底から出たような低い声。だけどそんな僕に一君は冷静だった。



「俺が傍にいる。おまえは安心して療養しろ」



確実に一君は【労咳】に気付いている。僕達が会うのはこれが最後。彼女への気持ちを知った上でそういう一君。その瞳に初めて彼女への想いをみた気がした…



“彼女を守り抜く覚悟”



自らの手で彼女を守り抜くという気持ちがひしひしと伝わってきた。




「はいはい。療養しますよ。すればいいんでしょ大人しくね…」



そう言うしかない。僕は彼女を害する事はあっても守る事は出来ないから…



翌日出立の時。一君の隣に立つ彼女は心配そうな顔をしてた。僕は君に精一杯の笑顔を送った。



一君なら君を守ってくれる。君が傷つくのは嫌だから…守ってもらうんだよ?



君の姿を目に焼き付けた―




――――――――――――




あの時と同じ目をしている…やっぱり彼女を守るのは一君なんだ…


「俺が傍にいる。お…


その言葉が聞こえ僕は一君の手を振りほどき部屋を後にした。後に続く言葉は違ってたはずなのに…



君を傷つけてしまった。守りたいと思っていた君を…やり切れない気持ちのまま歩いた。



廊下の先には千鶴ちゃん。ああ…一君を呼んだのは千鶴ちゃんだね。まったくお節介だよ。



「沖田先輩」



千鶴ちゃんの隣を通り過ぎようとした時呼び止められた。



「何?僕、機嫌悪いんだけど?」



「沖田先輩、最期にどんなお願いしました?」



「最期って死ぬ時?元気な体で彼女に会いたいって…かな…」



「…やっぱり…私は、沖田さんに会いたいって願いました」



「千鶴ちゃん…どういう事?意味わかんないんだけど…」



「お互い、好きな人と一緒になりたいとは願わなかった。最期の願いは叶ってるんです…」



…そう言わればそうだけどさ。なんだか納得いかない。



「きっとあの二人は…また一緒になりたいと願ったんです…だから…」



そう言って涙を流す千鶴ちゃん。君の気持ちはわかってるよ。その涙は僕の想いが彼女に伝わらない事を悲しんでだよね?



健康な体を手に入れただけで僕は幸せなのかもね。君の優しさを素直に受け止められるから。



「千鶴ちゃん、ありがとう」



そういってぽんぽんと頭を叩くと千鶴ちゃんは嬉しそうに笑った。



可愛い顔して笑うんだね。昔は酷い事ばっかり言ってたから、いつも泣きそうな顔してた。



僕の事をわかってくれる優しい君と違う道を歩くものいいかもしれない…



「千鶴ちゃん、どこかいこうか?」



「はい!」



せっかく望みが叶ったんだ感謝しないと…今を恨んだりしたらね…神様が怒りそうだ。



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