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□07.プラズマボール
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千鶴side


私が前世の記憶を取り戻したのは中学三年の時。塾の帰りその日はすごい雨だった。



雷が光ってはゴロゴロと鳴り地響きのよう…恐いくらいだった。



いつもは歩いて駅に向かうけど私はバス停に行った。雨の日なのにバス停にいたのは、かっこいい茶髪の男の人だけ。



二人でバスを待っていると雷はどんどん近付いて来た。光ったと同時にドドーンと轟いた。



「きゃっ」



びっくりして隣に立つ彼にしがみついてしまった。“すいません”と顔を見上げた時にまた雷が光った。



その光の中にいた彼は浅葱色の羽織を着て、ちょっと意地悪そうに笑っていた…雷の音が聞こえたはずだけど私の耳には入ってこなかった。



「沖田さん…」



初めて会った人だけど私は彼の名前を知っていた。私の声を聞くと“沖田さん”はにっこり笑った。



「千鶴ちゃん。記憶あるの?」



その声が合図だったみたい…過去の記憶が本をぱらぱらとめくるように見えた…



私は羅刹を見て新選組あずかりになった。幼馴染の彼女はそこで女中をしてた。大人しい子…最初はそんな印象しかなかった。



でも新選組にいる女の子は私達だけ。自然に仲良くなった。



名前で呼びあうようになったけど、彼女は引っ込み思案。彼女から話かけられることは少なかった。



幹部のみんなに話かけられる私。彼女に話しかける人は沖田さんだけだった。



悪戯好きな沖田さん。彼女にだけは優しくて、お土産を渡して話しているのを見かけた。



彼女の素振りは変わらなかったから、沖田さんが彼女を好きなんだとわかった。




池田屋事件の時、沖田さんは私を命がけで庇ってくれた…そんな沖田さんを見て私は好きになった。




沖田さんの体調が悪くなってくると、彼女と斎藤さんが二人で話しているのをよく見かけた。



彼女の表情はいつになく嬉しそう…斎藤さんの事が好きなのかもしれない。これで沖田さんは彼女を諦めるかもしれない…そんな期待をしてしまった。



『沖田さん食欲がないようなので…お粥を作ります』


夕飯を作り終わるとそういう彼女。料理に自信のある私は彼女に言った。



「私が作るね!」



そういうと、やりかけの縫い物を仕上げたいからお願いしますと彼女は自室へ戻った。



風邪なら葱入りのお粥がいいよね。そう思って作っていったお粥。



「僕、葱嫌い。彼女のお粥がいい…」



せっかく作ったのに、一口も食べて貰えずつきかえされた。沖田さんが好きなのは彼女…それが悲しい…



勝手場に戻る途中彼女に会った。…彼女が悪いんじゃない。それでもやりきれない思いを彼女にぶつけてしまった。



「沖田さん葱嫌いって知ってた?」



そう言うとびっくりした顔。私が怒ってるのに気付いたみたい。沖田さんへの想いも…



「千鶴…ごめんね…」



謝ってほしいんじゃない…余計に私はいらいらした。彼女の素直さに…



私のように彼女はみんなには優しくされない。だけど本当に私を好きになってくれる人もいない…



私は沖田さんを諦めない…それからも私はお世話にいった。もちろん拒否された…沖田さんが好きなのは彼女。



だけど彼女は斎藤さんと恋仲になっていた。それでも沖田さんは彼女を求めた…



沖田さんが千駄ヶ谷の療養所に行くことになった。私は同行を申し出たけど…許してはもらえなかった。




最後に見送った時…沖田さんが彼女を見つめるまなざし…私をあんな目で見てくれた事は一度もなかった…



胸が締めつけられて苦しい…どうして沖田さんは私を選んでくれないのだろう…答えは見つからなかった…



それから私は新選組と共に行動した。戦はどんどんと激しさを増していった…私は伏見奉行所から逃げる時に井上さんとはぐれてしまった。



風間さんに助けられみんなを追いかけた。だけどみんなと再び会える事はなかった…



それから一人で何とか生きていった。だけど数年で流行病にかかりあっけなく最期を迎えた。



新選組の皆のように志の為の死じゃない…



その時心に浮かんだのは沖田さんの事だった。病気で死ぬってこんなに悔しいんですね…





瞼をあけていられない…



これが、私の最期なんだ…



今なら沖田さんの事もっとわかってあげれるのに…











わかってあげたい…


もう一度、沖田さんに会わせて…


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