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□05.スパイラル・モビール
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斎藤side


彼女が剣道場にきた翌日。彼女は一人で登校してきた。その表情は暗い。昨日、部活の練習が後半に入ると彼女はすぐに帰ってしまった。



その後の部活の間、雪村の暗い表情…喧嘩してしまったのか。だとすれば総司の態度が原因…



雪村はいつも総司の事を目で追いかけていた。総司もそれに気付いているが、なぜかそっけない態度だった。



一人で目の前を通り過ぎようとする彼女に、校則違反は見られない。だが、心配で声を掛けてしまった。



「今日は雪村と一緒ではないのか?」



『今日は、たまたま…です』



何でもないといいたげだったが、その表情が暗くて俺までも気持ちが落ち込んでしまった。



彼女はそういうと早足で、校舎へと消えた…



俺が、口下手ではなければ、気のきいた事でも言ってやれたのだろうか…



あと五分で始業という時に雪村が来た。その表情は焦りというか苛立ちが見えた。



部活ではいつもにこやかな雪村。俺は声をかけられず、そのまま雪村を見送った。



昼になり、俺は風紀委員の部屋へと向かった。ここは静かだから、ゆっくり昼食をとれる。



そのときドアのガラスから、彼女が見えた。その表情は俯いていて暗い…向かった先には屋上への階段しかない。



…屋上に行くのか。昼休みの屋上は総司の特等席。彼女を総司の所に行かせたくない。



俺は彼女を追いかけた。屋上のドアの所で彼女に追いついた。



『斎藤先輩…どうかしたんですか?』



“総司の所に行かせたくない”そんな事は言えなかった。彼女の手には弁当の包みがあった。



「昼飯、一人なのか」



『はい…』



「屋上は寒い。一緒に食べないか?」



そういうと彼女は頷いた。二人で風紀委員の部屋に行った。並んで弁当を食べた。



彼女の事など何も知らない俺が、彼女が好きそうな話題を見つける事などできなかった。



これと言って会話もなく、静かに食べた。だが静寂の中に二人でいると落ちつく。



もっと彼女と一緒にいたいとすら思ってしまう。だがそんな時程、時間が過ぎるのはあっという間だ。



『一緒に食べれて…ありがとうございます』



「俺のほうこそ…」



自然と出た言葉だが、前にも言った事があるような気がした。そんな事を考えていると“それじゃあ”と部屋を出る彼女が見えた。



「俺は、いつもここで昼を食べている。いつでもきたらいい」



…思わず言ってしまった。下心が知られてしまいそうで、言ってから後悔した。


「はい。斎藤先輩」



だが、彼女は笑顔でそう言ってくれた。俺の顔が自然に綻ぶ。





部屋から出て行く彼女…


今までより近くに感じた…


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