拍手小説

□04.モビールコスモ
1ページ/3ページ

斎藤Side

マネージャーの雪村が部活に友達をつれてきた。その子を見て俺は驚いた。彼女だった。


練習中も気づくと彼女を目で追っていた。面をつけている俺の視線になど、彼女が気づく筈はない。



休憩時間になると、総司が外に怒鳴っていた。こんな総司は見た事がない。いつもは練習に集中し、女の声など無視しているのに…



何かあったのだろうか。俺はそんな事を考えていて、一瞬総司から目を離した。



総司の姿がない…気づくと、総司が彼女を抱きしめていた。カッとなり俺は冷静さを失った。気付けば大声を出していた。



「総司!」



「一君…そんな目で僕の事みないでくれる?この子気に入ったから、仲良くなろうとしてるだけなんだけど?」



飄々としてる総司は、剣道をしていない時の表情だ。俺を牽制しているような態度…俺は、何も言えなかった。



「僕の彼女にならない?」


彼女の耳元に顔を寄せ、嬉しそうにそういう総司に俺はキレた。総司の腕をつかみ、その隙に彼女の手をひき俺の背に隠した。



「一君こそ、手なんかつないじゃって。らしくないね?その子が好きなの?」



総司は俺が彼女に惹かれているのを見抜いていた。そんな総司は、挑発的だった。



彼女が入学してまもない。彼女の戸惑う姿をみても、総司と知り合いとは思えない。



総司に彼女を返す必要はない。だが、助ける理由が必要か…



「雪村の友達に、失礼な事をするな。困っているではないか」



「そう?その割には、拒否してなかったけどね」



拒否してない?明らかに困っていた。雪村も複雑な顔をしていた。



「総司。いい加減にしろ」


俺と総司のにらみ合いは続いた。だが、【練習はじめるぞ】という掛け声で、俺は皆の方へと向かおうとした。その時に手を繋いだままな事に気付いた。



俺の手になじむ、しっくりと落ちつく感触。手を握っていた事も忘れていたとは…その手を離した。



『斎藤先輩!』その声に振り向いた。



『ありがとうございました』



「ああ」としか言えなかった。大人しそうな彼女が凛としていた。



俺を見つめる彼女を見て、なんだか嬉しかった。総司の事など頭から抜け落ちた…


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ