「Identity」

□Rosa
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シェアハウスに引っ越してから二年が過ぎた。大学三年の春休みに真希から電話がきた。



「平助…話があるんだけど…」


「どうしたんだよ?元気ねえじゃん…」



真希とは思えない暗い声に驚いてそう言ったけど沈んだ声のまま“会って話す”っていうからファミレスで待ち合わせした。



そこにいくと真希は紅茶を飲んでた。俺はコーラを頼んで真希の前に座った。



「ねえ、平助。もしお姉ちゃんが妊娠したらどうする?」



「えっ!!名前が…なんで…俺…ちゃんと…「そうじゃなくて!!もしもの話!!」



真希の言葉で名前が妊娠したわけじゃねえとほっとした俺。ちゃんと避妊してるしそんな訳ないよな…よく考えれば。



「…結婚すると思う。なんでそんな事、俺に聞くんだよ?」



「私できちゃったみたいで…」


「できちゃったって…子供がか?新八って彼氏の?もう言ったのかよ?大学はどうすんだよ?」



妊娠なんて大事で…俺は自分の事じゃねえのにパニックになっちまって真希に聞いた。



「恐くて…新八に言えないのよ…」



そういう真希はいつもの強さはなかった。やっぱり不安だよな。



「名前が言ってたけど、新八さんは大人だって。まっすぐで憎めないタイプだって…そんな人ならきっと受け止めてくれるんじゃねえかな…」



「そうかな…“できたら責任は取るだからそのままで”なんて言われてのっちゃった私が悪いんだけどね…」



「真希…そりゃ…出来て当然だろ…何やってんだよ」



俺は呆れてそう言ったけど真希はなんか優しい顔をして笑っていた。



「好きな男にそんなこと言われたら“つけて”なんて言えないでしょ?平助も言ってみたら?」



ぶふぁー!!げほっ…げほっ…



俺は飲んでたコーラを吹き出した。真希の笑顔と言葉のギャップ…なんだよさっきまでの不安そうな顔は…



「そうだよね。新八は冗談でそんな事いうような奴じゃない。ありがと平助…それじゃあね」



そういうと明るい顔して帰っていった真希。でもやっぱりあの不安そうな声は本当だったと思う。



“俺が責任とる”そんな事を言える彼氏ならきっと大丈夫だと思うぜ。俺もいつかそんな事を名前に言えるようになるのかな…



それから二カ月もしないうちに結婚式を挙げた二人…おれも招待された。結婚式で新八さんに会ったのがはじめてだったけど…



「平助でいいよな。よろしくな!俺の事は好きに呼んでいいからさ!」



「新八っつぁん…て呼んでも?」



そういうとニカッと満面の笑顔。表裏なさそうな人だった…男気あふれる感じだったからそう呼ぼうと思った。



「平助。新八を変な呼び方しないでよ…」



真希はそんな風に言ってたけど新八っつぁんはまんざらでもないみたいで“いいじゃねえか”と真希をなだめていた。




結婚式が終わると名前はマンションから引っ越すことになった。真希と新八っつぁんが一緒に暮らす事になったから。



『平助と一緒に住みたい…』



「俺も…住みたい!!」



名前と二人で暮らせる事が嬉しかった。でも今度はなりゆきで同棲するんじゃないから名前の親父さんにも了解を取った。



「真希みたいな事になったら許さんぞ」



どすの利いた声で言われちょっとびびったけど娘を持つ父親なら仕方ないよな。



二人で物件を探した。マンションより古い所だったけどそんな事どうでもよかった。



引っ越して二人の荷物が入った部屋でお茶を飲んだ。外で会う事が多かったから二人きりの部屋がなんだかくすぐったい…



手を伸ばせば名前に触れられる距離にいれる幸せをかみしめた。そんな俺をみて名前も微笑んだ。



『平助と一緒にいるとすごく落ちつくけど…ドキドキする…変だよね…』



「俺は全然落ちつかねえ…名前をもっともっと感じたくなる…」



名前を抱きよせキスしまくった。“平助ってば…”呆れたような声がしたけど、すぐに甘いものに変わっていった名前の声…



何回キスしても…何回抱いても…足りない…



俺にとって名前は初めての女…



そしてきっと唯一の人…




それでいいんだ。俺の求めるのはたった一人。





名前だけ。





付き合った人の数を自慢する男もいるけど、結ばれる相手を見つけられないってことだろ?



俺の方が全然幸せだと思う。


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