「Identity」

□Fragaria L.
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千鶴side


斎藤さんの前で泣いてからなんだかテンションが下がった…



斎藤さんは必死に苗字さんを追いかけてる。でも話を聞くと脈ありには思えない。



それでも好きな人を諦められないのが恋だと思うけど…



私も冷静な人からみるとあんな感じなのかな…振り向いてもらえない人を手に入れるために汚い事までして…他人にどう思われようと気にしない。



土方さんは全てを捨てる覚悟で苗字さんを求めてる。私は土方さんの為に全てを捨てる事などできるのだろうか?




昔からお金に困ったこともない。苦労といわれるようなことなどしたことないし…




今の環境をすべて捨てて土方さんがいればいいと思えるのかな…



携帯が鳴った…お母様…珍しい…



「お母様…何かようですか?」



「久しぶりね千鶴。土方さんとはどうなの?上手くいってるなら結婚も考えないと」



今まで可愛いいとしか言われなかった私が全然相手にしてもらえない。



そう本当の事を言ったらどうなるのだろう…思い切って話した。



「全然相手にされない…どうしたらいいのかな…」



「千鶴…そんな人やめてしまいなさい。私とお父様は会ってすぐ意気投合したわ。どちらともなく気付けば会ってたし。恋なんてお互い磁石みたいに引き付けあうものなの。正反対に見えて同質なもの…それが一番うまくいくの」



「そんな事言ってもお父様とお母様は上手くいってないじゃない」



お父様は浮気…お母様はそれを黙認…そんな二人なのに…



「愛は永遠には続かないわ…今は、千鶴がいてくれるからそれで十分よ」



「土方さんを諦めろっていうの?三年も想っていて?」



「諦めろとはいわないわ…ただ何年想ってもその人が千鶴にとって本当の相手じゃなければ…十年かかったって通じる訳がないってだけよ」



「……」



“十年かかっても通じない”その確信に満ちたお母様の声…そう言われて私は何も言えなくなった。



これだけがんばっても気にもとめてもらえない…私の気持ちはどうしたらいいのかな…



「千鶴…そんなに落ち込まないで…恋してる時はまわりに気が向かないわ。あなたは浮気は許せないでしょ?地味な人でも一人の人を愛しつづける人を探せばいいじゃない…」



浮気しなければ誰でもいいわけじゃない。ちゃんと好きじゃなきゃ付き合う意味なんてない…



「お母様は勝手なことばっかり…私の気持ちなんか全然わかってない!!」



「恋のつらさは新しい恋でしか埋まらないわ。一番いい時を無駄にしてほしくないだけよ。千鶴なら探せるわ」



「何を根拠にそんな事…」



「私の娘だもの…人の本質を見抜ける子よ千鶴は…それじゃあね」



そう言って電話は切れた。色んな人達と接してきたお母様。その言葉には経験が隠れてる。



私の心は揺れた…



目の前にまったく違うレールがある事に気付かされた。それを選ぶのは私だと…

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