「Identity」

□Tulipa gesneriana
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辞める覚悟を決めた私。辞表を持って会社に向かった。始業30分前なのにすでに座っていた内藤部長。



『おはようございます。お話があるのですが』



私の声が硬いものだったからか“応接室へ…”と内藤部長は立ち上がった。



応接室がいくつもあるフロアに着いた。二人きりの部屋では内藤部長の声は大きく聞こえた。



「苗字さん、どうしたんだい?」



『会社を辞めたいんです』


そういって辞表をだすとすんなり受け取った内藤部長。



「そうか…苗字さんがそういうのなら…仕事的には斎藤君がわかってるから問題ない。今日明日は忙しいから、明日までは頼むよ。後は有給使っていいから…」



そういうと内藤部長は席を立った。バタンとドアが閉まると一人きり…



内藤部長は私が社長の愛人と誤解したままだ。普通、辞めるといったら一ケ月はいる。引き継ぎとか…補充する人の募集とか…



私が経理に来たのも急に欠員がでたから。経理部としては困るはずだけど、私を引きとめない…そういう事だ。



今まではそんな誤解すら自分を否定された様で嫌だった。だけど自分で辞める覚悟をした。ここで私がどう思われようと関係ない。




席に戻り仕事を始めた。辞めるとなると今までの資料も整理しておかないと…いつも以上に仕事に没頭した。



斎藤君が経費の精算で部屋を出ていった。



「苗字さん、ちょっと!」



内藤部長に呼ばれた。斎藤君に頼んだ書類を急ぎでプリントアウトしてほしいと言われ、斎藤君のパソコンを開き出力した紙を内藤部長に渡した。



そのファイルを閉じようとして気付いたおかしいファイル名…



“N”って何?思わず開いてしまった。そこにはウイルスにでも侵されたように文字が打ち込まれていた。






何これ…





何故名前は話を聞いてくれない何故名前は俺をから目をそらす何故名前は昼になるといなくなる何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故…








そんな文が一面にあっておもわず右上の×を押して消した…





どうしたら…





湧き上がる不安…





体が震えだした…





その場にいられなくてトイレへと駆け込んだ。暫くすると女子社員が入ってきた。化粧を直してるみたいでトイレに入る形跡はない。



鏡の位置からは縦に伸びるトイレの個室。私がいる事など気付いてない…




「ねえ、苗字さんが明日で辞めるって何でかな?」



「うーん。部長も理由言わないしなんか訳あり?最近斎藤君避けてたよね…ふられたんじゃないの?」



“そうかもね”そんな事をいいながら出て行った二人。内藤部長が私がいないからみんなに言ったんだ。



いずれはわかる事…多分斎藤君にも知られた…




あのファイル…斎藤君を追い詰めてしまった…



ちゃんと話をしないといけないのかもしれない…





でも…





怖いよ…





これは現実なの…?


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