「Identity」
□Bletilla striata Reichb.f.
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会社では斎藤君と話をすることもなく、黙々と仕事して昼は外に食べに行く。
【やりたい仕事ができる事が嬉しい】そう思っていたけど、信頼関係ができたと思っていた斎藤君を失ったのは、少なからずショックだった。
急ぎの仕事を助けあったり、大変な資料を作った時はお互い達成感を共有したり…
そんな事が仕事のやりがいにつながっていた。だけどもう同僚として見れない…
私が避けているのを斎藤君もわかっていると思う。話しかけてくる事もない。このまま、斎藤君が諦めてくれればそれが一番いい…
何事もなく数日過ぎた…
「苗字話がしたい…」
帰ろうとしていたら斎藤君に呼び止められた。驚いてデスクに向かって座っている斎藤君に視線を向けた。
でも、前を見て私に顔をむけずにそういう斎藤君がどんな表情をしているかは見えない。
それでも斎藤君の意識が私に向いていると思うと、一瞬にして不安が押し寄せる。ただこの場を離れたい…
私は無言で部屋を出た。斎藤くんと仕事以外で話などしたくない…私は家へと向かった。
平助はバイトを始めて私は寝るまで一人。コンビニでお酒とおつまみを買って帰った。鍵を開けようとしたら開いてた。
…平助いるの?
中に入れば電気がついてた。リビングにはいない…寝室に行くと寝てる平助。
具合悪いのかな…近づいて手を額にあてると熱い…
とりあえずアイスノンを持っていて頭をのせた。あんまり汗かいてない…
何か食べたかな?無理に起こして食べさせるのも…どうしようかな…
寝かせてあげたほうがいいかも…でも平助のそばにいたくて床に座った。
私が部屋に入っても気づかない位具合悪いんだ…いつも元気な平助が風邪を引いただけで、こんなに心配で不安になるなんて…
いつも平助に元気をもらってるか痛い程感じた。眠る平助はだるそうだった。
『早く元気になってね…平助』
前髪をどけると子供みたいな顔…スゥスゥ…という平助の寝息が聞こえてすこしだけ安心した…