『Identity』
□Tweedia caerulea
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「平助…食べすぎではないか?腹がでているぞ…」
「一君こそ、年寄りみたいな食い方してさ。ガバッと食った方がうまいよ?」
「俺は、味わっているのだ。余計な心配はいらん」
「心配してるんじゃねえよ…」
今日が、初対面とは思えない…お酒が入ったせいか、二人は言いたい事を言っていた。
それが、何だかおかしくて笑いが止まらない…お酒を飲む時は静かに飲むことが多くて、こんなふうにわいわい飲んだ事はなかったかも…
『二人とも仲いいね…』
「良くねえよ」「良くない」
二人同時に言う所がね…私がくすくす笑うと二人も、なんだか楽しそうに笑っていた。
大体食べ終わり、お酒もなくなった。斎藤君は色々ちゃんぽんしたので、少し頬を染めていた。
平助君はあの後、ジュースを飲んでたから、酔いはさめたみたい。
そろそろ、お終いにしないと…
二人といるのも、今日が最後。ちゃんとお礼をいいたかった。
『平助君…斎藤君…今まで、色々ありがとう。今日、三人で飲めて嬉しかった…』
二人の顔をみると、さっきまでのふざけた感じはなくて、しんみりした空気…
でも、どうしても頼みたい事があって…
言わなくちゃと思うと、震えそうな声…
でも、土方さんの為には言わなくてはいけない…
『二人にお願いがあるの…もし、土方さんに私の事を聞かれても、知らないって言ってほしいの。土方さんが、会社を辞めないように…』
「…本気なのか、名前さん。それでいいの?」
「……」
平助君は心配そうだったけど、斎藤君は何も言わなかった…
『うん。いいの…だから、約束して?』
私は、ふたりに両手の小指を差し出し、指きりするよう視線を送った…
二人はなんだか複雑な顔をしてたけど、私はお構いなし…
交互に顔を見ると、二人はだまって指を絡めた…
感触の違う指を感じながら、指きりした…
口で言うだけでは、なんだか私の気持ちが伝わらない気がして…本気をわかってほしかった…
子供の頃にした指きりとは違う重みがあった…
指をはなして、後片付けをしようとしたら、“俺が片付ける…”と二人がハモった…
『ありがとう…じゃあお願いします』
私はそういって、テーブルを片付ける二人をソファから見ていた…
今日は本当に楽しかった…
伝えたい事を伝えられて、ほっとした…
安心した私の瞼は、ゆっくり落ちてきた…