『Identity』

□Tweedia caerulea
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「今日で最後だからさ、送別会しようよ!名前さん」


朝、出かける前にそういう平助君。そんなの、気にしなくていいのに…やさしいなぁ…



『別にいいよ。それより最後だから、平助君の好きなもの一杯つくるよ!』



「えっ、ほんと?楽しみだな!」



簡単に話の流れが変わった…本当に食べるの好きだよね…平助君らしい。



私がくすくす笑うと、“なんだよ”って、口をとがらせて拗ねる平助君。



別れた時は、こんなに普通に会話ができるなんて、思わなかった…



『ねえ…もう大学いかないと、だめなんじゃない?』


時計を見た平助君は“やべえ!!”と玄関に向かった。


『いってらっしゃい!!平助君!!』



「いってくる、名前さん!」



手を振って、出て行く平助君。一人になると実感する…



今日する事は全部最後になる。一つ一つが思い出になる…




―――――――――――



「うわーすげー俺の好きなものばっかり…」



洋食の好きな平助くん。テーブルの上は、なんだか子供の誕生会のような感じになってしまった。



でも、平助君の嬉しそうな声…



『喜んでもらえてよかった。食べよ?』



「『いただきます』」



食べはじめたけど、明らかにつくり過ぎた。ゆうに5、6人分はあるかもしれない…



「うまいよ!モゴモゴッ…名前さん!」



くすくす笑った…ほっぺに一杯ほうばる平助君が見れて、嬉しかった。やっぱり、りすに似てる…




“ピンポーン”




こんな時まで、“土方さんかも”と思ってしまう私。そんな事あるわけないのに…



“平助君を愛してる”なんて嘘をついておいて、結局どこか期待しているのかもしれない…



“ちょっと待ってて”そう言って、玄関を開けた。





斎藤君だった…





『久しぶり…どうしたの?』



なんだか疲れきってた、斎藤君。私の分の仕事…任されてるんだろうな…



「仕事が忙しくて、なかなか届けられなかった」



そう言って手渡されたのは、角三の封筒。中を見れば、私物の文具だった。



荷物をもってきてくれたし、仕事でも迷惑かけたから、お礼も兼ねて誘った。



『わざわざ、ありがとう…。斎藤君、ご飯食べた?よかったら、食べてかない?作りすぎちゃって…。それに私、明日引っ越しだから…』



「そういうことなら。おじゃまさせてもらう」



少し表情を緩めた斎藤君に、ほっとしてリビングに案内した。なぜか驚いた顔の平助君…



『平助君…経理の斎藤君。私の荷物もってきてくれて。食べきれないから、一緒にいいよね?』




「…ああ、かまわねえけど…」



斎藤君の顔を見ていた平助君。一瞬、間があいた…なんでだろう…



「はじめまして。斎藤一だ」



「俺は、藤堂平助…どうも…」



なんだか、ぎこちない雰囲気だった…そういえばお酒が残ってた。残しても平助君は飲まないし…




『斎藤君、お酒飲む?日本酒はないんだけど…』



「ああ、もらおう」



私はキッチンにお酒を取りに向かった。戻っても、無言の二人。



斎藤君にお酒を選んでもらうと、ビールがいいというので、グラスに注いだ。



“苗字もどうだ?”というので、お酌してもらった。



「俺も飲む!!」



その平助君の声に驚き顔を向けると、コーラを飲みほしたグラスを差し出す平助君…



その顔が必死過ぎて、少し残っていたビールを注いだ。…きっと仲間はずれみたいで嫌だったんだよね。



「「『 乾杯 』」」



そう言って、飲み始めた。平助君はグラスの半分位で、顔が赤くなってきていた。



「子供の誕生日のようだな…」



テーブルを見つめながら、斎藤君の呟きが聞こえた。私は思わずくすくすと笑ってしまった。…私もちょっとそう思っていた。



斎藤君は、和食派だよね。私も今は、和食の方が好きだな。



昔は洋食も好きだったけど、土方さんと営業に出かけて、おいしい和食を食べると、洋食よりも好きになった。



どんな事も、土方さんに結びついてしまう私は、どこまでも土方さんの事が好きなんだ…



「平助、止めておけ。お前は未成年だろう」



ワインに手を伸ばした平助君を斎藤君が止めた。



「俺らって、酒くらい…飲める!!」



明らかに…酔ってる。“平助君、やめといた方がいいよ”と声を掛けた…



「名前さんがそういうなら…」



と、すんなりひいてくれた。酔っても素直な平助君…真っ赤な顔…



横をみれば、ちびちびビールを飲んでいる斎藤さん。どうも、炭酸は苦手みたい…



いつもと違う二人に囲まれて、なんだか楽しかった。私のお酒はどんどん減っていった。


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