『Identity』
□instability (3-5)
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「名前さん。もう遅いから寝よう…」
家に着くとそう言われベットで一緒に寝た。平助君は私が話すまで待つつもりなのかも…
そう思うとやっぱり今言おうと思った。小さい明かりしかついてない部屋で横向きに体勢を変えて平助君を見つめた。
『平助君…全部話すから…聞いてくれる?』
そういうと天井を向いていた顔を私に向けてくれた。
「ああ…」
その表情は優しくて…私の考えが間違ってなかったと思った。
近藤さんに言われた事。斎藤君と飲みにいって酔い潰れてしまったこと。真希とのやりとりも全部話した。
『私は平助君が大事。だから仕事辞めようと思う…真希の事は止められないかもしれないけど…』
そう言うと平助君はなんだか難しそうな顔をしていた。
『平助君…?』
斎藤君の部屋に泊まった事を責められるかと不安で呼びかけた。
「えっ。ああ、もう遅いから寝よう…」
だけど平助君はそう言って視線を天井に向け瞼を閉じた。
何か言われるかと思った…わかってくれたんだよね…
遠征から帰ったばかりだし疲れてるよね…私も体勢を戻し眠りについた。
胸の中のことを全部話した私の心は軽くなった。
何も言ってもらえなかったけど責められるかもと思っていた私は安堵してしまった。
“話してくれない”平助君にそう言われたから話すべきだと思った。
その事が平助君にとって必要な事だと疑わなかった。
でも私の話を聞き終わった後、何も言わなかった平助君。どうして平助君が何も言わなかったのか私は考えてなかった。
全てを受け止められる関係なんだ…ただそう思っていた。