『Identity』
□Two alternatives (3-4)
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結局泣き疲れて眠ったみたい…咳も止まったし仕事に行けそうだったけど…行く気になれなかった。
近藤さんに会って私は会社にとって必要とされてない気がした…休むつもりでいつも会社に着く位の時間に電話を入れた。
部長に休む事を伝えたけど風邪でガラガラ声の私。
“お大事にな…”と心配された。
斎藤君に頼まれた仕事がまだ途中だった事に気付いた。
『頼まれてた仕事のことで…斎藤君いますか?』
「苗字、大丈夫か?」
電話に出た斎藤君。心配してくれるとは思ってなくてちょっと驚いた。途中になってる仕事の説明をした。
「俺の事は気にするな…ゆっくり休め。考える事もあるだろう」
斎藤君の“考える事”って仕事の事だよね…まだ近藤さんには言ってない。
だけど私の心は決まっていた。斎藤君にも色々心配かけたし言った方がいいかも…
『斎藤君…私、北海道支店に行こうと思う…』
「何故…」
『土方さんが自分の人生をかけて守ろうとしたこの会社…私もこの会社を支えたいから…』
私を必要としてない会社…でもどんな形でもいい…土方さんの為に何かしたかった…
「あんたが決めた事なら俺が口出しすべきではない」
斎藤君がそう言ってくれてほっとした。自分で出した答えなのに何だか不安だった…
やっぱり私にとって大きな決断だったから…
私の考えを尊重してくれる斎藤君はいい同僚だと思う。
『いろいろ迷惑かけちゃってごめんね…』
「気にするな。あんたもひどい声だ。俺の事はいい。休め」
『ありがとう…』
私は電話を切った。斎藤君の何気ない会話でわかった…
自分が選んだ答え…それが自分にとって正しい答えなんだ…
平助君にも自分の考えをちゃんと言おう…
平助君と向き合おうとするといろんな感情が押し寄せて…言葉にできなかった。
…でも言わなければいけない。そう思ってリビングに行ったけど平助君の姿はなかった。
するとどこかほっとしてしまう私がいて…
そんな狡い自分が嫌だった…
すぐに揺らぐ私…
どうしたら強くなれるのか…
携帯の音がして開くと知らない番号。
『はい…?』
「苗字君かね?近藤だ。今日仕事休んでるんだね。会いたいんだがお昼にこの間の料亭に来れるかね?」
少し早口でそういう近藤さん。それは断れない雰囲気…
『…はい。大丈夫です』
「じゃあ、12時に待っているから」
携帯を切るとため息がでた…
返事は今月一杯待つっていってたのに…
どうして今日呼び出されるのか…
大きな決断を伝える…と思うと緊張していく私。
近藤さんに会う事を考えるだけで心は冷静さを失っていった…