『Identity』

□instability (2-5)
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斎藤side


俺の家に着いた。“起きろ”と声を掛けたが目を覚まさない。仕方なくおんぶして部屋へ向かう。



“迷惑だな…”頭ではそう思うが俺の肩から前に投げ出された無防備な腕。耳元で聞こえる小さな寝息。



経験したことのない状況に俺の胸は冷静さを失う。己の心拍数が平常時とは明らかに違う事を感じていた。



とりあえず部屋に入りベットに寝かせた。“苗字”と呼ぶが、やはり反応はない。俺は諦めシャワーを浴びた。



部屋へ戻ると布団が床に落ちていた。コートもきたままだし部屋も暖かい。風邪を引くことはないだろう。



苗字を見るとコートは羽織っただけで、ボタンは止めてなかった。着ていたセーターの胸元にはネックレス。




“平助”といっていたな…土方部長より平助を選んだあんた。平助はいったいどんな奴なのだろうか。



薄桜不動産といえば一流企業。ここより上の会社に入社するという事は不可能だろう。



それでも仕事より平助を取る…それほどの価値がある人間ということか…



俺にはない何かを持ってる。そう思った。そんな時また携帯が震える音。背面にはあいつの名前。しばらく鳴っていた。



鳴りやまない音に平助の想いの深さが見える。だが次第に俺はイライラしてきた。



なんの躊躇もなく苗字に選ばれる平助。仕事に熱心な苗字があっさり平助を選ぶという現実に俺は納得いかなかった。



苗字のバックに手を伸ばした時音は鳴りやんだ。だが俺はその手を止めなかった。バックから携帯を取り出し電源を落した。



ここに居ないのに自分を主張する平助。ネックレスに携帯…俺はどす黒い感情に包まれた。



苗字の胸元にあるネックレスを取り外した。止め具をひっぱり…壊した。



なんだろう…こんな事俺らしくない。



だが俺の部屋で苗字と二人きり。そこに平助がいるのが嫌だったのだ。



床に寝たが眠れなかった。あんたが寝がえりするたび俺の意識は引きもどされる。



俺が眠ったのは明るくなってからだった。


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