『Identity』

□Two alternatives (1-4)
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開かれた障子。12畳位はあるゆったりとした和室には“近藤様”と呼ばれた人だけだった。



「呼びたててすまない。座ってくれ」



そういわれ私は近藤社長と向かい合わせに用意された席に座った。



『近藤社長…経理の苗字です』



何を言ったらいいかわからず挨拶をして頭をさげた。



「会社の外では社長なんて呼ばないでくれ…」



その言葉を聞いて土方さんに同行した時の事を思いだした。



社長と呼ぶなという近藤社長…どこか土方さんに通じるものがあった。



初めて見た近藤社長は私が思っていたイメージと違っていた。



支店を何個も持つ大企業の社長。恐いイメージがあった。



だけど目の前にいる近藤社長は温厚そうな人だった。



でもその醸し出す雰囲気はやはり凛としていた。上に立つ者の品格というか…



挨拶はしたものの自分からは話しかける事も出来ずただ黙っていた。




「失礼します」




そういってお茶が運ばれてきた。



「苗字君。食事にするかね?それとも、お酒にするかい?」



そういう近藤さんに頭を振って断った。



『すぐ失礼しますから…』



「そうか…わかった」



近藤さんはそう言うと私をしっかりと見据えた。



「トシと君が付き合っていたのは本当かい?」





いきなり核心をつかれた…




事実を伝えればいい。そう思うけど私の声は震えた。



『はい…土方さんが1月の本社出張の頃まで…でも今はもう…』



そういうと近藤さんが驚いた顔をした。私達の事は知っていたはずなのに…



私は近藤さんの言葉を待つしかなかった。



「トシは…別れる時君に何か言ったかね?」



少し慌てたようにそう言われ私はまたバレンタインの時の事を思い出した。




思い出せばやっぱり悲しくて少し俯いた。




『いいえ…何も。でも雪村さんがいたからだと思いますけど…』




「すまない…」




その言葉の意味がわからず私は顔を上げた。そこには私に頭を下げる近藤さん。





ドク…ドク…






私の心臓が嫌な大きさで鳴りはじめた…






私の知らない何かがある…


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