『Identity』

□21.2nd October
1ページ/10ページ

千鶴side


私は左手にあるダイヤの指輪を眺めていた。これさえあれば全部うまくいくと思ったのにな…



指輪を手に入れた時のことを思い出していた。



会議から帰ってきた土方さんは難しい顔をしていた。一旦席にもどるとすぐさま鞄を持って出かけた。



その顔は初めて会った時のように鋭かった。仕事に本気になったんだ…



あんまり追い込むとダメかも…暫くはこのままにしておいてあげようかな?



土方さんが営業を出て数分後…私は土方さんに電話した。



「土方だ」



その声は低くて仕事の鬼って感じだった。



「土方部長。電話がありまして12時過ぎに折り返し電話が欲しいとの事です。電話番号いいますね…090-…」



「で、誰からだ?」



「…すみません。聞きそびれました」



「…そうか。わかった」



やっぱり私を怒ったりしないんだよね。優しいんだかどうでもいいんだか…



12時を過ぎた。私は携帯を持って人気のない階段にいた。12時3分…私の携帯が鳴った。



もちろん土方さんだ…



「土方さん?千鶴です」



「てめえ、どういうつもりだ?仕事のじゃますんじゃねえ」



さすがに今の状況で仕事の邪魔は良くないよね…私はすぐに話を始めた。



「土方さんは今仕事が忙しいですよね?だからこの間の答えは少し待ちます」



「わかった…」



少しほっとしたような声が聞こえた。



「そのかわり私欲しいものあるんですけど買ってくれます?」



「何が欲しいんだ?」



「そうですね…指輪とか?」



「俺は忙しい。欲しけりゃてめえで買って領収書もってこい。」



まあ土方さんとジュエリーショップに一緒に行くのは無理だと思ってたけど…



しょうがないか…でも好きなの買えるし。



「わかりました。じゃそういう事で」



返事はなく私の携帯からはツーツーという無機質な音だけが聞こえていた。



一人で買いに行き翌日領収書を渡した。その日の夕方、現金の入った封筒を渡された。



すべてが事務的。“どんなの買ったんだ?”の一言もない…



でも買ってもらったには違いないからまぁいいか…



左手の薬指に指輪。それはお母様の手みたいに見えた…


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ