『Identity』

□20.2nd September
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私は平助君からもらったネックレスをいつも身につけていた。



それは平助君の優しさが私を守ってくれる様な…お守り。



もらったネックレスは派手じゃないから仕事の時もつけていた。



会社の制服は開襟のブラウス。洗面所の鏡の前に立つとピンクサファイアが揺れる。



私は平助君の優しさを感じながら過ごしていた。



「苗字、精算金を営業に持っていってくれないか?」



『えっ?私ですか…?』



斎藤君の言葉に驚いて動揺してしまった。



斎藤君の仕事を手伝う事はあるけど代わった事はなかった。



…この間データの読み合わせしたから信用してもらえたのかな?



でもお金の事はいつも斎藤君が責任持ってたのに…


斎藤君の意図が全然わからなかった。



「俺は急ぎの仕事がある。頼めるか?」



そう言われると“わかりました”と言うしかなかった。時計をみれば11時。



土方さんは営業で外回りしてるはずだ…



問題は雪村さんだ。できれば会いたくない。



精算担当の佐川さんにお金を渡してすぐ戻ってくればいい…



私は斎藤君に渡された封筒を持って営業に向かった。



エレベーターを降りると懐かしい光景があった。



移動になってから初めて来た。様子をぐるりと見ると、新しい事務の子が2人いた。



雪村さんの姿はなくてほっとした。



佐川さんの姿を探した。一番奥にいる…そう思って足を踏み出そうとした。



「苗字さん?」



会社には似つかわしくない冷たい声が聞こえた…



私は恐る恐る声の方に振り返った。



雪村さんが立っていた。


「精算金ですか?私が渡しておきましょうか?」



そう言われたけど、雪村さんが信じられなかった。



もし紛失でもしたら大変な事になる。



『佐川さんに渡すように言われてるので大丈夫です』



雪村さんにそう言うと、私は構わず佐川さんの所に行って精算金を渡した。


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