『Identity』

□17.2nd August
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着替えた私は土方さんの家に行く事にした。



『平助君。ちょっと出かけてくるね、時間わからないから、夕飯先食べてて?』


私がそういうと平助くんは少し苦しそうな顔をしてた。



「気をつけてな…何かあったら電話して?家いるから…」



いつもの元気がない平助君。何かあったのかな…


こんなに私を心配する平助君を見た事がなかった。


『…うん?…わかった。いってきます』



“いってらっしゃい”そう言った平助君の声は暗かった。



でも土方さんに雪村さんの事を聞こうとしていた私。



平助君の事を気に掛けてあげるだけの余裕はなかった。



夕方だというのに外は蒸し暑かった。



キスマークが見えないように襟のついたノースリーブのブラウスをきた。



土方さんのマンションに着きエレベーターのボタンを押した。



だけど12階で止まったまま動かない。



「苗字さんですよね?」



こんな所で自分の名前を呼ばれるとは思ってなかった。



驚きで顔が強張る…ゆっくりと声のする方を見た。






…雪村さんだった。






彼女が私を知っている…どういう事なのだろう。



会社では一度も話をした事などなかった。



私と土方さんの事を知っているのかな…



「話があるんですけど…ちょっと来てもらえます?」


何も答えない私に厳しい口調で雪村さんが言った。


会社で見た雪村さんは幼く見えた。だけど今日の彼女は女の顔だった。



逆らう事などできず私は後につづいた。



ついた先はマンションの反対側にあるカフェだった。



席に座ると雪村さんの強い眼差しに私は俯くしかなかった。



そんな私を見て雪村さんが話だした。



「私が土方さんに初めて会ったのは三年位前です。パーティであって一目惚れしてそれから…」



私よりも雪村さんが先に知り合っていた事に驚いた…




…私が浮気相手って事?




嫌な汗が噴き出した…




私は慌ててハンカチで汗を拭いた…



すると一層厳しい声で雪村さんが私を攻め立てた。



「人のものに手を出さないでください!」



“人のもの…”その言葉にドクンと心臓が波打った…



土方さんは私のもの…私にそう言い切る自信なんてなかった…



「…それとも体だけの関係ですか?それならそれで構いませんけど…浮気の一つや二つ。仕事ができる男なら当たり前ですし…」



そんな事をいう雪村さんが大人に見えた。



私なんかよりも男の人をわかってる気がした。



でも私は土方さんを信じたかった。




私にくれた言葉は土方さんの本心だって…



誰にも渡したくないって…



…だからマンションまできた




『土方さんに直接会って聞きます…』



そんな私の言葉は雪村さんの笑いでかき消された。



「くすくす…男の人が浮気相手に本当のことを言う訳ない…適当に繋ぎとめる言葉を言うに決まってるじゃないですか…甘いですね苗字さん」



そう言われて私は何も言えなくなってしまった。



「現実を見せてあげましょうか?」



その言葉を聞いて私は顔を上げた。



そこには自信にあふれた雪村さんの顔…



これが自分が本命だという余裕なのかな…


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