『Identity』
□16.2nd August
2ページ/10ページ
斎藤君に、ハンカチを返してもらった。お互いあれから少しだけ打ち解けた気がする。
定時になり帰ろうとした時、斎藤君に呼び止められた。
「苗字、これを大会議室にもっていってくれないか?」
そう言って。封がされた茶封筒を渡された。
『大会議室って9階のですか?誰に渡せば?』
「とりあえず急ぎだ。行けばわかる」
そう言われ会議室に向かった。大会議室はワンフロアが一つの大きな会議室。
新人研修や入社試験とか大人数でつかう部屋がある。
定時を過ぎてからの会議なんてよほど重要な事なんだろうな…。封がしてある書類を届けるんだから。
9階についた。エレベーターを降りると違和感…
電気がついていない。日も沈んでいないし窓がいっぱいあるから明るいけど…
でも会議があるなら電気をつけとくはずなのに…
会議室の扉についている太い取っ手に手をかけ重い扉を開けた。
「失礼します。経理の苗字です」
私の呼び掛けに応える人はいなかった。
会議室の中は夕日に照らされてオレンジ一色だった。
騒然と並んでいる長机と椅子…
“大会議室っていったよね?”
聞き間違いしちゃったかな…一瞬不安になった。
何時からの会議か聞かなかったな。
時計をしてない私は会議室の時計を見ようと中に足を進めた。
すると急に腕を引かれた。
すぐにわかった…
煙草の香り…
土方さん…