『Identity』
□16.2nd August
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土方side
やっと正しい資料を営業先に配り終えた。
安堵したってのはあるがやる気が一気に落ちた。
雪村も落ち込んだ風だが俺は声を掛けてやる気にもなれなかった。
俺らしくもないがその位今回の件は堪えた。
俺がしっかりしていれば起きなかったミス。全ては仕事に集中できてねえ俺が悪い。
その原因が女だなんて…今までの俺なら鼻で笑うところだが今回ばかりは違っている。
どうやっても名前の事が頭から離れねえ…こんな事があるんだな。
経理から来た経費精算の封筒を開けた。白い紙が入っているのが見えた。
ドクンと波打つ胸。俺らしくもねえが慌ててその紙を見た。
“苗字は、××駅前の2LDKのマンションに住んでいます 斎藤”
名前は元々一人暮らし。2LDKって事は誰かと一緒に住んでるって事だ。
すぐに頭に浮かんだのは、あのガキ…。
名前と一緒に住んでるってのか?俺があんな奴に嫉妬してるなんて情けねえ。
だが前住んでた所より会社から離れてる。駅前って事は電車で通ってるのか?
まさかまた酔い止めの薬を飲んでたりしねえよな…
名前の事が心配になってきた。大丈夫かなあいつ…
そのメモはすぐにシュレッダーにかけた。
どうにもイラつくし心配でしょうがねえ。
喫煙所に行って煙草をふかした。
煙草の味なんてしない。ただ働かねえ頭をからっぽにしたかった。
俺の手にある煙草からのぼる煙はゆらめいた…
それは俺の迷う心の様だった…