『Identity』
□13.June
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仕事にもなれ自分だけの仕事を任されるようになった。それは営業費用の集計だった。
10日、20日、月末の翌日に集計し人ごとに一覧にするというもの。
営業の人数は約50人。個人の掛っている費用と営業成績を比べるためのものだ。
申請書類を一枚一枚分けて集計するため時間がかかる。
でも一つだけ嬉しい事があった。土方さんが書いた申請書を見る事ができる。
あの流れるような綺麗な字をみると一緒に同行していた幸せな時間を思いだせた。
「その時は本気だったんじゃないかな。でも人の気持ちって変わるから…」
平助君に言われた言葉が私を自己否定から救ってくれていた。
“一緒にいてえ…”といってくれた土方さん。
その時そう思ってくれていた…その言葉は嘘じゃない。
一瞬でも想いが通じた…それだけで嬉しかった。
短い間でも私は恋をする事を知った。苦しかったし悲しかったけど…それ以上に幸せだった。
父の事があって男の人を信じられなかった私。
それでも人を好きになる事ができたのは土方さんのおかげた。
仕事をする楽しさを教えてくれたのも土方さんだ。
もし仕事に同行させてもらわなかったらまだ電話番をしていたと思う。
すべては土方さんに出会えたおかげ…
好きだという気持ちは消えていなかったけど…
会社では顔を会わすこともなかった。
少しずつ思い出に変わりはじめていた…