『Identity』

□12.May
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平助君に土方さんの事を話してから少しだけ気持ちが楽になった。



決して忘れられたわけではないけど…



平助君が受け止めてくれたから無理に抑えることもなくなった。



抑えることがないからその反発もなくて、私の心は少しだけ安定していた。


五月に入るとGW。会社はカレンダー通りにお休みだった。



大学もお休み。休日は昼まで寝ている私達。



気づけば今日は昼を過ぎてもう三時だった。



私はさすがにまずいと思ってリビングに行った。



『おはよう…平助君』



「おはようって、もう三時過ぎてるけど…」



呆れぎみにそういう平助君。すでに着替えていて起きてから大分経ってたのがわかった。



ああ、私だけお休みを無駄に…ガックリしてしまった。



「名前さん。この部屋模様がえしねえ?」



『模様がえ?…どういう風に?』



「色がついたもの少ないしなんか殺風景じゃねえ?」



…あんまり気にした事がなかった。言われてみればリビングにはこれといって色のついたものはなかった。



『言われて見れば…』



「じゃ着替えて?俺いいとこ知ってんだ!」



そういう平助君について行った。ついて行った先は100均のお店。



でもいままで見た事もない位大きかった。ビルの地下1F〜5Fまで全部が100均だった。



『えっ、これ全部100均なの…?』



そう言えば、“電車からいつも見えてたから気になってたんだ”という平助君。



あまりの広さに私は驚いた。いつも通る道とは線路を挟んで反対側で店の存在を知らなかった。



『こんなに広い100均初めてかも…』



私が驚いてると…



「これだけあれば何か欲しいものあるよな!」



そう言って籠を私に渡した。平助君も篭を持って中に入った。



そこは色が溢れていて目がちかちかしてしまいそうだった。



でもひとつの雑貨にしても色が豊富で選ぶのは楽しかった。



食器やカラトリーも色が多かった。色物の食器は使った事がなかった。



家にあるのは白一色だったから白地に模様がついているだけで可愛く見えた。



でも家にあるのもまだ使えるしな…そんな風に考えていると…



「それ、名前さんぽい」



平助君は赤とオレンジの細いラインが二重になってるお皿や茶碗を指差していた。



こんな暖色系が私っぽいのかな?



そう思っていると平助君は自分の籠に入れた。碧と黄緑の色違いのも。



「いっつもうまい飯作ってもらってるから新しいやつはお礼って事で!」



笑顔でそういう平助くん。お世辞じゃなく本当にそう思ってくれてる気がした。



素直な笑顔を見せてくれるけで私も素直になれる気がした。



“ありがとう、平助君”



私も素直にお礼が言えた。


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