『Identity』
□10.March
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三月に入って最初の週末引っ越しをした。
荷物をみんな出した部屋はがらんとしていて自分の部屋じゃない気がした。
土方さんが酔った私を送ってきてくれた事がこの部屋で一番幸せな出来事だった。
もう随分前の事なのに…土方さんを見てキュンとした事を思い出してしまった。
この部屋に思い出を置いて行くんだ…そう思うしかなかった…
引っ越した先はいまの駅より二つ会社から離れた駅前のマンションの5階。
2LDKで広かった。数年しかたっていないようで綺麗だった。
部屋に入るとすでにテレビや冷蔵庫も配置してあった。
妹の為に父がそろえたのだろう。だけど肝心の妹の姿は見えなかった。
私は自分の荷物の整理した。もともと荷物も少ないからそれほど時間もかからなったけど…
引っ越しが終わった事を父に連絡するべきか迷った。
でも“ああ”の一言で終わるのが目に見えていたから電話しなかった。
妹が引っ越してきた時に言うだろう。だけど妹はなかなか引っ越してこなかった。
…何か嫌な予感がする。妹も私を好きではない。
本当に一緒に住むのかな…
三月の中旬。妹がマンションにやってきた。
―男の人を連れて
―いやな予感は的中した