『Identity』
□8.February
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物事が流れ出す時は…いろんな事が同時に動き出す。
その流れは濁流のように激しくて私の力ではどうすることもできなかった…
仕事が終わって部屋に戻ると携帯が鳴った。
“土方さんかも”と思った私の期待は裏切られた。携帯の液晶には実家の電話番号。
会社に入社してから電話が来たことなどなかった。しばらくそのままにしたけど鳴りやむ気配はない。
『もしもし…』
不安で小さい声になった。話だしたのは父だった。
「名前か?真希が推薦で大学に合格した。一人暮らしは危ないから二人で住め。マンションは用意してある。三月から入れるから早めに越してくれ。住所と鍵は郵送で送る。家賃はこちらで払うから気にするな」
父は要件を言うと電話を切った。四年近く話もしてないのに“元気か?”の一言もない。
別に私と妹を一緒に住まわせたいわけでもない。ただ妹の異性関係を心配しての事だ。
あの子は自由奔放だった。中学生の頃から彼氏を家に連れてきては“して”いた。相手はマッチョな男ばかり。
家に居合わせた時は最悪だ。声が聞こえてくる。私は外へと出かけざるおえなくなる。
二人でマンションに住んでも同じ状況になるのは目に見えてる。
だが父の考えは絶対だ。逆らう事はできない。
逆らえば“専門に行かせてやった”とか“育ててやった”とか言う人だ。戦うだけ無駄だと思ってしまう。
翌日、私は大家に電話して部屋を出る手続きをした。
今日から一ヶ月は家賃が発生する。一ヶ月後までに引っ越さなければならない。
いままで家族と離れて暮らして平和だった。今更、妹と暮らす事を考えると気が滅入ってしまう。
絶対に何か起きる。平和なんて事はありえない…