『Identity』

□3.October
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土方さんに同行するようになって一か月。土方さんはすでに二件の契約をとった。



不動産会社の動かす金額は大きい。最低でも一億から数億の金額が動く。



すごい人に同行していると改めて思った。営業先以外ではほとんど話す事のない土方さん。



でも仕事の進め方は大体わかった。私に求める資料も大体同じ内容のものだ。



作る書類の書式を作ってしまったから後は調べた内容を打ち込むだけ。電話番が終わる8時には帰れるようになった。



――――――――――――



土方さんが本社出張のため二日留守にする事になった。私は久しぶりに電話番だ。



事務の子たちが“創立記念パーティー”の話をしていた。



今年は50周年の記念だからホテルで取引先も招待して大々的にやるらしい。女の子はドレス着用。



「苗字さんは何着ていくの?」



『…あ、ドレス持ってないし…買わないと』



「ふーんそうなんだー」



事務の一人に声を掛けられた。最近は化粧もきちんとしている私をなんとなく仲間としてみてくれる様になっていた。




土方さんはかっこいいけど同行を経験した彼女達が私を羨ましがる事はなかった。



すでに土方さんは“仕事の鬼”というのが浸透していた。


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