『Identity』

□1.August
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会社に入社して三年半が過ぎた。結婚というものに憧れを持てない私は、高校卒業する時に専門学校という選択をした。




会社の役員をしている父は世間体を考え短大にやって早く結婚させたいのが見え見えだった。




今の母は父の後妻だ。本当のお母さんは私が4歳の時に病気で死んだ。箱の中にお母さんがいて皆がお花をその箱に入れていく。




お花に囲まれたお母さんは白い顔をしてたけどすごく綺麗に見えた。だけど蓋を閉めらて私は動揺して泣いてた。父は優しく私の頭を撫でてくれた。




それから毎日母さんの事を考えては泣いてた。だけど私の次の誕生日がくる前に父は新しい母を連れてきた。




なぜかその人のお腹は大きくて暫くすると子供が生まれた。父が“名前の妹だよ”って言うから私は喜んだけどそれもつかの間だった。




父は妹を可愛がり私には冷たくなった。妹にだけ色々買ってあげたり私が甘えようとしても受け入れてはもらえなかった。




新しい母は自分の母ではないという意識があったから私は何処にも甘えられなかった。




中学生になると父は母さんが生きてる間から妹の母と浮気していた事に気付いた。妹との年の差を考えればすぐわかった。




母さんが病気で苦しんでいる時に浮気をしていた父の事を許す事ができなかった。でも私は一人で生きて行く術がなかった。




とりあえず専門学校を卒業するまでは父に養ってもらった。就職を期に一人暮らしをはじめた。もちろんそれを止める人はいなかった。




私の居場所は母さんが死んだ時にもう無くなっていたのだ。私はやっと一人になれた。自分を必要としない人達と一緒にいる事ほど辛いものはなかった。


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