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□ほんとのキモチ
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風紀委員をしている俺が校門の前に立つのは日課だ。


「今日は沖田来ないですね。なんだかんだいって遅刻ギリギリに登校してくるのに。」


総司が来ない理由など俺にもわからん。付き合い出してから遅刻したことなどなかった。


南雲の問いかけに“そうだな”と答え腕時計を見た。イライラするのは南雲の何かを勘ぐるような視線のせいだけではない。


今日が俺と総司にとって大事な日だからなのかもしれん──


始業ギリギリまで立っていたが結局、総司は姿を現さない。腕章を外し教室に行くとすぐにHRが始まった。


総司のことが気になり土方先生の話すら耳に入らない。頭にあるのは付き合い始めた一年前の今日のこと。


俺と総司は高校で知り合った。


俺達は剣道の腕前が同等で、部活の後も試合形式で練習するようになった。


あの容姿に剣道の腕前、勉強してる風には見えないがトップクラスの成績。目立つ総司は女子にいつも囲まれていた。


ライバル視していたが、剣道の時に見せる真剣な眼差しに心を持っていかれた。


俺が男に惚れるなど…認めたくはない。だが二人で練習している時だけ、俺の心は抑えがきかなくなりそうになる。


自分の気持ちを認めざるおえない。総司のことが好きだと──…


総司が女と話しているだけで腹の中にどす黒い感情が渦巻くのがわかる。どうにもできん…


俺達はクラスが一緒で、気付けば総司を目で追っていた。


半そでのシャツから出るがっちりした総司の腕に女子が細い腕をからめるのを見るとイラつく。


「総司、風紀が乱れる。校内でイチャつくのは止めろ。」


「僕がしたくてしてる訳じゃないよ。この子に言いなよ?」


平然と言い放つ総司は…俺が総司をひがんでいると思っているのだろうな。


冷たい視線を向ければ、総司に向けていた笑顔をめんどくさそうな顔に変えた女は俺を睨んだ。


「行こうよ…総司?」


「うん、いいよ。」


すれ違いざま俺の耳にこっそりと囁いた総司──


“一君が怒ったのは…風紀委員だから?”


くすりと笑いながら…俺の本心を見抜いているのか?焦る鼓動は冷静さを失った。


その日はずっと総司の視線を感じた…休憩時間、昼休み、部活の間も。


俺を挑発しているのか、からかっているか…それすら分からないくらい総司の視線に動揺した。


それを気取られないように練習中もがむしゃらに竹刀を打ち込んでいく。総司に馬鹿にされたくない一心で──


国体の出場が決まっていた俺達はいつものように部活の後、二人で練習していた。


総司は必死に俺の攻撃をかわし、隙があれば攻撃に転じた。いつも以上に緊迫した練習だった。


時計を見れば道場を閉めなくてはいけない時間…面を外せば俺達は息もあがり汗だくだった。


「一君…はぁはぁ…僕、疲れちゃって立ち上がれないよ。」


面も小手も放り投げ、背中を壁に預け腰を下ろした総司を見つめた。


いつも通りの声に安心した俺の目には、総司の長い首を汗が伝い落ちるの見えた。


俺とは違いはっきりとした喉仏が動く──…目が離せなかった。まずい…


「総司、もう鍵を土方先生に返さねばならん。」


防具を片付けようとした時“立たせてよ?”と総司は左手を差し出した…仲間であれば躊躇する方がおかしい。


その手を取ったが、俺を見上げる総司の瞳に動けなくなった。


いつもと違う…穏やかで優しさを感じる眼差し――…


「一君てさ、そんなにがむしゃらに頑張って楽しい?なんか、自分を追い詰めてるみたいに見えるけど…」


その一言で心のたがが外れる音がした。


頑張ることは苦ではない。俺が逃れたいのは総司…お前からなのかもしれん。


仲間として手を握ることはあっても、俺の心が満たされることはない。


それが高校にいる間ずっと続くなど、耐えられん──


それなら…いっそのこと──…


「はじっ……んんっ…!」


俺はしゃがむと総司の後頭部を抑え込み唇を重ねた。


突き飛ばされるかもしれんと思いながらも今までの想いをぶつける口づけだった。


総司を感じたいと舌をねじ込み、己の舌とは違う熱に何も考えられなくなった。


我に返ったのは唇を離した時──総司に拒まれず、心が納得したというか諦めがついたというか。


“満たされた”その一言に尽きるかもしれん。


今まで勉強を一番に考えていたから女に興味がなかったと思っていた。


だが、求めていたものが違った…


俺の欲求は満たされても、総司にとっては迷惑な話だ。


「すまない…総司。」


「ちょっと、一君…やり逃げする気?卑怯じゃない?」


立ち上がり背を向けた俺に聞こえた総司の声に棘はない。恐る恐る振り返れば何か企んでるような顔。


「どういう意味だ?」


「それはこっちの台詞でしょ?このキスの意味は何なのさ?」


「……っ。」


意味など一つしかない。だが…言葉に詰まった俺をじっと見る総司を誤魔化すことなどできないだろう。俺は覚悟を決めた。


「俺はあんたを好いている。友としてではない…」


これで伝わるだろう…拒絶か馬鹿にされるか…どちらにしろ俺の気持ちにけじめがつく。それでいい。


「そう。はじめ君が我慢できなくて衝動的な所、嫌じゃなかった。」


「総司…それは……」


「僕も一君のこと好きかも。理屈抜きに求められるの悪くない。むしろ待ってたのは僕の方だったのかな…」


そこまで聞いたら体が勝手に総司を求め、再び唇を重ねた。


汗で濡れた総司の首筋に触れる俺の手と、俺の背中に感じる総司の腕。


互いを力強く引き寄せ、満たされる心に幸せを感じた。


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