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□04.モビールコスモ
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斎藤Side
マネージャーの雪村が部活に友達をつれてきた。その子を見て俺は驚いた。彼女だった。
練習中も気づくと彼女を目で追っていた。面をつけている俺の視線になど、彼女が気づく筈はない。
休憩時間になると、総司が外に怒鳴っていた。こんな総司は見た事がない。いつもは練習に集中し、女の声など無視しているのに…
何かあったのだろうか。俺はそんな事を考えていて、一瞬総司から目を離した。
総司の姿がない…気づくと、総司が彼女を抱きしめていた。カッとなり俺は冷静さを失った。気付けば大声を出していた。
「総司!」
「一君…そんな目で僕の事みないでくれる?この子気に入ったから、仲良くなろうとしてるだけなんだけど?」
飄々としてる総司は、剣道をしていない時の表情だ。俺を牽制しているような態度…俺は、何も言えなかった。
「僕の彼女にならない?」
彼女の耳元に顔を寄せ、嬉しそうにそういう総司に俺はキレた。総司の腕をつかみ、その隙に彼女の手をひき俺の背に隠した。
「一君こそ、手なんかつないじゃって。らしくないね?その子が好きなの?」
総司は俺が彼女に惹かれているのを見抜いていた。そんな総司は、挑発的だった。
彼女が入学してまもない。彼女の戸惑う姿をみても、総司と知り合いとは思えない。
総司に彼女を返す必要はない。だが、助ける理由が必要か…
「雪村の友達に、失礼な事をするな。困っているではないか」
「そう?その割には、拒否してなかったけどね」
拒否してない?明らかに困っていた。雪村も複雑な顔をしていた。
「総司。いい加減にしろ」
俺と総司のにらみ合いは続いた。だが、【練習はじめるぞ】という掛け声で、俺は皆の方へと向かおうとした。その時に手を繋いだままな事に気付いた。
俺の手になじむ、しっくりと落ちつく感触。手を握っていた事も忘れていたとは…その手を離した。
『斎藤先輩!』その声に振り向いた。
『ありがとうございました』
「ああ」としか言えなかった。大人しそうな彼女が凛としていた。
俺を見つめる彼女を見て、なんだか嬉しかった。総司の事など頭から抜け落ちた…