Novel

□寄り添って
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り添って


湯気がほわほわと立つ、熱くなった白いカップを片手に、そっと部屋のドアを開ける。
一見真っ暗な部屋の奥に足を進めると、壁際には白い蛍光灯で煌々と照らされた机と、そこに身を伏せる一人の男が目に入った。
夜も遅いというのに、この人はまた……私はあきれ気味に息を吐く。
机に近づきコトンと彼の横にカップを置くが、私に気が付く様子は全く無い。
微かに聞こえる寝息と規則正しく上下する肩を見る限り、どうやらすっかり寝入ってしまっているようだ。
眠気覚ましにコーヒーを、と思ったのだが少し遅かったようだな。

近くにあった椅子に腰かけ、しばらくその優しい寝顔を見つめる事にする。
そういえば、ここ最近は仕事が忙しいと言っていた。
彼が病院の医院長になってからは、こうして家でも夜遅くまで仕事をする事が多くなった。
緊急の患者で病院に呼ばれる事もあったし、ゆっくりと睡眠が取れる時間は少なくなっているようだ。

「……無理はしないで、あなた」

小さく呟いた声は、暗闇に溶けて消えて行く。
私には手伝える事は少ないけれど、今この時だけはどうか彼が、いい夢を見れていますように。
貴方が少しでも体を休められますように。

起こしてしまわないよう、優しくそろりと彼の肩に毛布を掛ける。
そしてもう一度穏やかな寝顔を見てから、静かにその場を離れようとした、その時。

「ん……浅雛」

ポツリと、私の昔の名字が呼ばれ、懐かしさに胸が震えた。
彼の方を振り向いてみるが、辺りに聞こえるのは相変わらず規則的な寝息だけ。
どうやら寝言だったみたいだが。
もしかしたら、高校時代の夢でも見ているのかもしれない。
懐かしい、生徒会でのあの日々。
会長や榛葉さん、ミモリンに……そしてキリやウサミ。
色々な人たちに囲まれて過ごした、楽しい思い出。

あなたは本当に、昔から真面目で頑固で真っ直ぐだったな。
今とほとんど変わっていないのがおかしくて、思わず口元が綻ぶ。
また今度、みんなと集まって食事でもしよう。 きっとミモリンがいいお店を予約してくれる。

童心に返ったような気持ちで、寝ている彼に向けて私は静かに口を開いた。

「椿くん、愛してる」


これからも貴方を支えていけますように。

椿と雛菊。
二つの花が、お互いに寄り添いながら、生きていけますように。



Fin.

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