Novel

□甘さは程々に。
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さは程々に。


10月31日。
私が放課後に生徒会室へ入ると、静かな教室の中には椿くんだけがいた。
どうやら他のみんなはまだ来ていないらしい。

彼は私の気配に気付くと、スッと顔を上げる。
今日も相変わらず凛々しい顔付きだな、椿くんは。
彼氏彼女として付き合っても、何一つ変わらないそんな彼に、今日は少しだけいたずらをしてみたくなってしまった。
私は椿くんの隣にある自分の席に鞄を置いて座ると、彼にボソリと言った。

「椿くん、T O T」

「ん? な、なんだ?」

椿くんは不思議そうに眉を寄せて私を見つめている。
……伝わらなかったようだ。
眼鏡をくいと片手で持ち上げながら答える。

「トリック・オア・トリートだ。 今日はハロウィンだからな」

すると彼はあぁ、と納得したように少しだけ微笑んだ。

「そういや今日は31日だな。 そうか明日はもう11月か、1年て早いものだなぁ……」

そんな事はどうでもいいんだが。
しかし、私が眉を寄せているのに気付かない椿くんは、早くやり残した仕事を片付けなければな、とかなんとかぶつぶつ言っている。

「……O K I」

低い声でそう言うと、椿くんは僅かに首を傾げた。

「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、だ」

「あぁ、そういう意味か」

では、理解してくれたようなのでもう一度。

「O K I」

椿くんはそんな私を見て、困ったように頬を掻いた。 そして申し訳なさそうに口を開く。

「すまないが、今はお菓子を持っていないんだ。 丹生にでも頼んでくれないか」

「そうか……なら、仕方ないな」

「あぁ。 今度持ってくる事にする」

彼はそれだけ言うと、シャーペンを手に取りいそいそと仕事を始めた。

そうだな、お菓子がないなら仕方ない。
じゃあ……。

私はそっと椿くんの隣に身を寄せ、何も持っていない彼の右手に自分の手を優しく重ねた。
―――そして。


ちゅっと、彼の頬に触れるだけのキスをする。
その瞬間、シャーペンが床に落ちる音が室内に響いた。

「あっああああ、浅雛っ!?」

椿くんは勢いよく振り向いて、真っ赤な顔をこちらに向ける。
どうやらかなり動揺しているようで、耳まで赤く染まっていた。

「どどど、どういうつもりだ! こ、こんな所でっ!」

「お菓子をくれない椿くんが悪い。 だから、いたずらをしたまでだ」

冷静に答えると、彼は口元をわなわなと震わせて私から視線を逸らした。

「しかし、こっこういう公共の場でそういうのはだな……。 だ、誰かに見られるかもしれないし」

「じゃあどこならいいんだ」

「どこでも駄目だ!」

こういう時の彼は、本当に可愛い。
ますますいたずらをしたくなってしまうのは、どうしてだろうか。


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