Novel

□恋と愛
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と愛


「椿くん」

二人だけの生徒会室にて。
僕の隣にいた浅雛は、透き通った瞳でじっとこちらを見据えている。

「どうした?」

すると彼女は無表情のまま、小さく口を開いたのだった。

「恋と愛の違いって、わかるか」

「へ?」

突拍子も無い質問に、おかしな声を上げてしまう。
恋と愛の違い?
いきなり何を言い出すんだと思わず眉を潜めるが、浅雛は僕の回答を静かに待っており、一向に目を離そうとはしない。
仕方ないので、パッと頭に浮かんだ答えを述べる事にした。

「……好きの度合いじゃないのか」

なんだか、自分で言ってて恥ずかしいな。
そんな僕の答えを聞いた浅雛は、僅かに口元を緩める。

「私は、心の位置が違うなと思っていた」

「心の位置?」

「恋は下に心、愛は真ん中に心。 つまり」

恋は下心で、愛は真心だ。
そう言って微笑んだ彼女は、どこか妖艶な雰囲気を纏っていて……ドキリと胸が小さく跳ねる。

「椿くんはどっちだ?」

「ん、どっち……とは?」

「私に、下心を持っているのか真心を持っているのか。 恋と愛……今はどっちで私と付き合っている?」

私に恋してるのか、私を愛してるのか。
どちらかの答えを選べという事だろうか。

しかしこれは、どっちを答えても恥ずかしいぞ。
恋と答えれば下心が丸出しみたいだし。
愛と答えればプロポーズ並みの告白を言う事になる。
そんなの誰もいないとはいえ、こんな所で言うのはどうかと……。

浅雛から目を逸らし返答に困っていると、彼女はずいっと僕に顔を近づけたのだった。
……眼鏡の奥の長い睫が、ハッキリと見える程にまで。
その時、ふわりと花のような優しい香りが僕の鼻をくすぐった。
突然の浅雛の行動に言葉を失い、一気に体の体温が熱くなる。

こんなに近かったら。
体の奥で、微かな欲望が湧き出るのを感じた。

「あ、あさひ……な」

「どっちだ?」

浅雛の綺麗な低い声が耳元に届くと同時、心臓が早鐘を打ちカッと顔が火照る。
耐えられなくなった僕はなんとか声を絞り出し、彼女の肩を掴んだ。

「りょ、両方だっ」

そして、我慢が出来きずに彼女の小さな唇に乱暴に口づける。
しかし浅雛はそんな僕を押し返すわけでもなく、じっと固まったままだった。

僕は君を愛しているし、君に恋もしている。
下心だって真心だってあるんだ。
ハッキリとは言わないが、浅雛の事を心から好きでいるんだ。
そんな気持ちを込めて、いつもよりも長めのキスをする。

ゆっくりと顔を離すと、彼女は顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯き、一言。

「……D O S」

と、小さく呟いたのだった。



Fin.


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