文章

□無の少女の独白
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◇無/神無

私は 生まれたんじゃ ないわ
生み出されたの 作られたの

私は「無」なんですって

私はここにいるのよ
たった今 あなたが作ったのよ
動けるのよ 話せるのよ

だけど あなたは否定する
お前には何も無いのだ、と。

だから 私は何も持ちません
私はいません 私はありません




◇鏡/神無

ある日 鏡を渡された

「お前にはこれを与えてやる」
少し乱暴に 手渡された

覗き込むと 白い女の子がいたの
思わず 聞いてしまったわ

「あなたはだあれ」

問い掛けても 応えなかった
そうよね 私はいないんだもの

私はいないんだもの。




◇妖/神無

後で 誰かに 聞いたのよ

鏡の中には
妖が住んでいるんですって
鏡の妖は 鏡を見るひとを
驚くほど 完璧に
真似るんですって。

でも それなら
私を真似る 妖の元の姿は
一体 何処にあるの

聞いても 白い女の子は
無表情で 黙ったまま

「何故 教えて くれないの」

聞いても 妖は教えてくれなかった。




◇存在/神無

だったら いいわ
私が見つけてしまうから
そう意気込んで 探してみたの

探したけれど 見つからなかったわ

鏡は 鏡でしか ないの
妖は 何処にも いない
何処にも、いない。

ああ やはり そういうこと

「私たち 似た者同士 なのね」

鏡に手を 合わせるの
それだけで 私たちは 繋がるのよ
何処にもいない 無いもの同士
お互いの存在を 確認するように。




◇人/神無と琥珀と奈落

琥珀 という 人間の 男の子
目に光のない 無感情な 少年

「わしの意のままに動く。言わば操り人形だ。そうだろう?琥珀…」
「はい、奈落さま…」

過去の記憶に 怯えて
記憶を消されて 奈落に仕える

怯える?なあに それ。

操り人形は 私がいようと
うんともすんとも言わずに
ただ 琥空を 見つめていた

彼は 私と同じようで 違う
空っぽな人間だった




◇妹/神無と神楽と奈落

「神無…お前の妹の神楽だ…」
そう言って 笑う奈落

妹。
その言葉の意味は 知っている
私の後に 生み出された もの。

「こやつは『風』。お前より、厄介なやつかもしれんな…」
そしてやはり 奈落は笑う

風。
それも知っている
目に見えないけど 確かに「ある」もの。

「ふうん。あんたが神無…ね」

言うと神楽は 隣をすうっと通り過ぎる
突然 轟と音がする
髪が舞った
振り向く が、もういない

「ふっ…神無、神楽はお前には大して興味もないようだ。自由気儘な事だな」

自由。
それはなんだろう
あるもの?ないもの?

どちらにしても
神楽は 私が持ってないものを 持っている
そんな気がした

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